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「――で、契約するんですか? しないんですか?」 「しないって言うたらどうなるん?」 「どうなるか尋ねられても考えてなかったです……。貴女なら私の傍にいてくれると思ったので」  伏し目がちに言われて胸がキュンッとなった。あかんの! ウチが魅了されてるやの。無自覚に魅了魔法が使える神父様なんかも……。ダークエルフの特性って何やったっけ……。ああもう、こういう時にパッと思い出されへんウチのあんぽんたん!  そういえば、この人から家族の雰囲気が全くせえへん。もしかして、お母さんは討伐されたんかな……。お父さんはお母さんを庇って一緒に……。そんで、聖職者になって、こう、魔物を密かに救うような人に……なんて……。なんだか可哀想になってきたやの。 「ウチ、神父様と一緒におるやの」 「良かったです。では、ナイフで指切ってここに判を」 「その前に教えて欲しいやの。どうして聖職者になったん?」 「貴女に話すようなことではないですよ」  答えてくれへんやの。  やっぱり、何かしら重たくて悲しい事情があるんやの……。  ウチはテーブルに置かれたナイフで小指を切って、契約書に血を落とす。悪魔相手に契約書って、意味あるんかな。人間からこういう契約を持ちかけてくるんやから、実はもうウチにメロメロやったりとか? 小指から血がダラダラ垂れる。あれ、いつもならすぐ治癒するのに。あれ? 「本当に銀のナイフだと血が止まらないんですね」 「ひどいやの!」 「すみません。気になってつい試してしまいました。……あまり得意ではないんで、失敗したら傷口が爆発するかもしれませんが、いっそ爆発したほうが治りが早くなるかもしれませんね」  神父様はウチの手を取って、小指をパクッと口に含む。指先から熱が広がっていく。顔が熱い。ウチ、きっと今、赤面してもうてる。恥ずかしい。なんか、恥ずかしい! 「爆発せずに済みましたね」 「は、うぅうう」 「急に座りこんでどうしました?」 「神父様のばかぁ! ウチの精力抜いてってるやの!」 「……それはすみません」  頭がグラグラして思わず床に座ってしもた。半分ダークエルフなだけあって、精力を抜いていくタイプやったやの……。小指の切り傷は跡形もなく消えてた。  能力はホンモノやの。問題は、コントロールができへんってところ。  神父様は、無意識に魅了チャームをかけてるから教会に人が集まってくるんやと思う。……ウチの能力、全く持って必要無くなってまう。ううん。男性でも女性でも若くても年寄りでもウチは魅了できるもん! サキュバスの能力をなめるなって感じやの! 別になめられてはないんやと思うけど!  ウチが床に座ってる間に神父様は何処かに行ってしもた。優しさが無い。ここで聖職者の慈悲が全くない。  女の子が困ってたら助けるのが男ってもんやの!  ちょっとしてから足音が近付いてくる。ウチの前にコトンッとコーヒーカップが置かれた。白い湯気がもくもくしてる。すごく熱いんやない? ウチ、何を飲まされるん? 「ホットミルクです。床は冷えると思うので」  床が冷えると思うならウチを抱き上げてベッドに運んでそのまま抱いて温めてやの!  目の前に置かれたカップを手に取る。あったかい。人肌ぐらいやの。人恋しい夜にぴったりの温度やの。白い水面がゆらゆら揺れる。膜は張ってない。ウチ、あの膜嫌いやから良かったやの。カップを傾けて、少しとろみのある白濁色の液体を口に含む。舌の上で転がしてからゴクンッと喉を鳴らして飲み込んだ。 「上手にごっくんできましたね」 「神父様のなら、もっと上手にごっくんできるやの」 「でしょうね。……まあ、悪魔にエサは与えませんが」  メロメロになってないけど、はじめに比べたらだいぶ優しくなってると思う。慣れなんかも。……ホットミルク、美味しいやの。

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