視線が集中してる。こうなったら、神父様に迷惑をかける前に全力で逃げるしかないやの。ウチが神父様を騙してたことにして、逃げれば、きっと神父様よりも階位が上の人が来ても大丈夫なはずやの! 「バレてしまっては、仕方ないやの! せっかく、神父様を騙してせーえきを搾り取ろうと思ったのに。この町とはお別れやの!」 「何言ってんですか?」 かっこよく修道女の服を脱ぎ捨てて飛び去ろうとしたら、神父様に尻尾を掴まれてウチは地面にビターンと落ちる。痛いやの。うぅ、顔からいってしもたやの。鼻血出たやの。涙も出てしまうやの。 「神父様! これはいったいどういうことですか!?」 「エクソシストも共にいるくせに何してるんだ!?」 「あ、あー……、これには色々と事情が……」 「事情って何だ!?」 「聖職者が悪魔と手を組んでたって言うのか!?」 大変やの。ダメンズエクソシストが男の人に囲まれてるやの。背が低いから、すっごい見下されてるやの。それについては、ざまあみろやの。自業自得やの! サキュバスってわかってて放ってるエクソシストなんて最低やの! ウチが言うのもなんやけど! 神父様はウチの尻尾を掴んだままやの。千切れそうやからそろそろ離してほしいの。それに、このままやと神父様が本部から何か言われてしまいそうやの。下手したら、ダークエルフの血も混ざってるし、討伐されてしまいそうやの。 「ひとまず、耳が痛いので黙っていただけませんか。賑やかなことは良いとは思いますが、こうも大声で話されては何を言っているか聞き取れません」 「どうしてサキュバスを退治せずに傍に置いているんですか!?」 「神父様、教会に天使がいるって言ったのに! やっぱり悪魔だった! 騙してた!」 「……私には、この子が天使に見えるんですよ」 尻尾を掴んでた手が離れる。今度こそ逃げな。飛ぼうとしたら手をガシッと掴まれた。それから引き寄せられて、ぎゅってされた。何やのこれ。何やのこれ。顔から火が出そうなくらいに熱くなってるやの。サキュバスのウチを照れさせてどうするつもりやの。こんなに人間が見てんのに! 悪魔ってバレバレで大変やのに! 「思えば、私がこの町に配属されてから色々なことがありました。だいたいグレネードランチャーをぶっ飛ばせば解決することでしたが……、私の人生で実りの多い経験をしたと思います」 昔話をしみじみと始めるような場面やないと思うやの。 そんでも、周りにおる人らは話を聞いてるから、この神父様には何か人を惹きつける能力があるんかも。内容はグレネードランチャーやから全く頭に入って来ぉへんけど。 ダメンズエクソシストの近くにおる人の頬が妙に伸びてるから、おはるさんが引っ張てるんやと思う。人の目に入らへんから、ああいうのちょっと羨ましいやの。 「この子はツノを掴んで投げても、尻尾を思いっきり引っ張っても壊れないので……、私の運命の女だと思いました。私がきっちり調教するので、皆さんに害が及ぶことはありません。この子は無害な悪魔です」 「でも、教会に悪魔がいるのはなぁ」 「悪魔の中には神を信じる者もいます。それに、この子は私を信じていますし、私の嫁になりたいとまで言っているので、他の男の元へ行くことはありませんし、行かせません。私の妻なので」 「それならいっかぁ」 あれ、なんか、事態が収拾したみたいやの。おまけに、祝福ムードになってるやの。 神父様はウチの頬にちゅってした。ハグする時にするようなキス。それだけやのに、ウチの体はボンッと蒸発しそうなくらいに熱くなった。無敵になったような気がするやの。今なら何でもできそうな気がするやの。 「服、着てもらえませんか? お前の肌を大衆に晒すのは妬けます」 「は、はいやの」 脱ぎ捨てた修道女の服をそそくさと着なおす。町の人らは「お幸せに」って言うて去っていった。ウチ、町の人に存在を受け入れられたやの……。 神父様も、メロメロにできた、やの?
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