一方、啓吾は四国の高知にいた。 四国遍路。昨年役所を退職して、退職したら四国遍路を何年かに分けて、全て徒歩で廻ろうと計画していた。 札幌はすでに雪も近いのか、雪虫が舞い始めた11月、一人旅に出ていた。 先方から声を掛けられた。 髪の薄い、老けた女性で、ホンゴウさんと弱々しい声で呼ばれ、誰か判らなかった。 名前を言われても、申し訳ない位にさっぱり判らず、、人違いではないかと問うと。 「昔、東京の銀座で、ホステスを、、、あの、、ミチというクラブ、、ホンゴウケイゴさんじゃないですか、、。 」 そう言われて、はっとした。 昔、昔、自分が40代の頃、、何度か仕事がらみで行き、そこで働いていた、、確か、アツコだったか、、2度ほど、、ハメを外した。 粘っこい女で、妻の真知子とは真逆の女だった。 それにしても老け方に驚く。 商店街での立ち話だったが、癌で入院中とか。 啓吾は納得する。 それで顔色も土色で、髪は若い時から、染めたり、パーマをかけたり、いじりすぎると、年をとった時に、薄毛になり、髪の質も藁のようになるとは、妻の真知子がよく言っていた事。 たった2度だけ情を交わした、、そんなものでも覚えているものかと、一瞬はぞっとしたが。 単身赴任の啓吾に真知子はハッキリ言った。10才も年下のはずが。 「しがらみを作らないようにして下さい」 利口な真知子は、ある意味では怖い存在だった。 自分の目的の為には、集中して努力する。非常に意志が強く、頭も良い。 大学も行かず、働きながら、税理士や不動産鑑定士の資格を独学で取ってしまうのだから。 離れて暮らしていても、油断は出来ない、全てお見通しのはず。 しがらみ、そう、真面目な啓吾は、その、しがらみに注意して生きていた。 可哀想とか、義理とか、縛られたくないと考えていた。 そのクラブには行かないようにした。 そのアツコという女は、別れ際に、すがる女だったから、、。 また、会ってほしい、、。愛人にして、、私、尽くします、、。 啓吾は、思い出しながら、いやはや、、避けていて良かったと感じた。 しかし、しかし、そこは、真面目で律儀な啓吾。 実家の両親はすでに亡く、これから手術だというアツコに、病院を聞き、日を改めて見舞いに行った。 花と見舞金に10万ほどを渡し、頑張るように言い病室を出たが。 🥀
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