「今夜は何を作るの? 」 ボンヤリ、居間に座っていたら、祖母が帰宅したのに気付かなかった。 エプロンをしてキッチンへ。 テーブルに、生のニシン、生姜、菜の花、蕗の薹を並べる。 祖母は、 「まあ! 今夜は春らしい食材で、楽しみだね、、蕗の薹は、売っていたのかい? 」 祖母は山菜が好きな人。ワラビ、蕗、ゼンマイ、コゴミ、ウド、竹の子、、春から夏まで、毎夜のように食卓にのっていた。 蕗の薹は、近所の鈴木さんのお爺さんが分けてくれたと話す。 札幌は計画的に街づくりをしたと聞く。 中心部は京都のように碁盤の目のようになっている。 何条何丁目、頭に条は南か北、丁目は頭に西か東を付ける。 行ったことのない場所も、その住所を聞くと誰でも簡単に行ける。 美しい街だと思う。 祖父も祖母も東京の生まれ。 転勤で札幌に来た祖父母は札幌のはっきりした四季や美しい空気、食材の美味しさに惚れ込み、家を建て、札幌から大阪、神戸と転勤は続いていたが、娘の夏休みや冬休みになると札幌を訪れていたとか。 あちこち転勤して、旅行ではなく、実際に住んだからこそ、他の街とは違う、札幌の良さに気付いたのかもしれない。 真偉も、札幌が大好きだった。 長い冬があるからこそ、母の大嫌いなゴキブリも生きることが出来ず、寒さに弱い虫やウィルスも死んでしまうのだろうと。 大雑把な性質やしなやかに強い精神の女性、そして、誰かが言っていた、札幌は清潔なイメージがある街だと。 真偉もそのように感じる。 ニシンはウロコを丁寧に取らなければ。生姜は良く洗い、皮はスプーンでさっとこそげるように、厚くむく必要はない。 生姜をすり下ろし、たっぷり入れて、少し濃いめの醤油味で煮る。 蕗の薹も流水で丁寧に洗い、キッチンペーパーでしっかり水分を取り、小麦粉に米粉を少し混ぜたものを衣にして揚げる。 菜の花はゴマ和え。 きれいなグリーンを潰したくないので、白胡麻をすり鉢ですり、白味噌、ミリンと合わせる。 祖母は、横に立ち、ゴボウの味噌汁を作ってくれている。 ササガキしたゴボウを沢山、ゴボウだけの味噌汁。 それが、非常に美味しい。 祖母は味噌汁について、強く言うのは、具は単品にしなさいと。 食材そのものの美味しさを味わうためには、ごちゃごちゃ混ぜないで。 4月からまた大学通いが始まる。 勉強は苦にならず。 ただ、進路について、決まっていない。 誰にも言ってはいないが、家族だけは、大凡察している様子で。 真偉は知能が並外れて高いだけでなく、ある特殊な能力がある。 心が読める、自分も含めて、対峙する人の先が見える、その先というのは、1分、2分だったり、5分先までだったり。 たぶん、気持ち、ないしは、精神の集中の度合いによるようで。 真偉は人間の醜さや悪意を見えてしまうからこそ、人を避け、友を求めないのかもしれない。🥀🥀🥀
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