図書室の井口先生
図書室の井口先生-9

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「その事故以来やなあ、放課後この森で遊ぶ子供らの間で、石にけつまずいた勢いで、脳震盪を起して死んだり、スズメバチに刺されて死んだりと、立て続けにぎょうさん事故が起こるようになったんやあ。それはあの事故のせいとちゃうんって話が広まり、おかげでこの森が、放課後立ち入り禁止になったっちゅうことやねん」 「そうだったんだ」 唯はそう答えるのがやっとだった。言葉にならないような怒りや悲しみが、じわじわと湧いてきては、すぐに消えていく。 「せやから俺思うんやけど、あいつは事故で死んだんとちゃう。いじめで死んだんやとなあ」 井口先生が、独り言のようにそう言った時、風が強く吹いて、木の葉がざわざわと大きく揺れた。 「いじめっちゅうもんは、ほんまに最低なことなんやでえ。人の命をも、簡単に奪い去ってしまうんやからなあ」 井口先生の声は、とても力強かったけれど、何だかほんの少し震えているようにも唯には聞こえた。  と、井口先生の大きな手のひらが、唯の肩に優しく触れた。 「おまえはだいじょうぶかあ?」 「えっ?」 井口先生からそう聞かれて、唯は戸惑った。 「おまえ昨日、学校ずる休みしたんやろ?」 唯の心臓が、大きくどきんと音をたてた。 「どうして分かったんですか?」 唯は小さな声でおそるおそる尋ねた。 「そらおまえ、さっき教室に入ってきた時の、どんよりした暗い顔を見たら、誰でも分かるでえ。もしかして昨日、カレー作るのそんなに嫌やったんかあ?」 「違います」 自分の口から出てきた声の強さに、唯は自分でも驚いた。それはいつもの自分の声ではないみたいだったから。  唯はカレー作りはやりたかった。料理も好きだし、野菜を切ったり、いためたりするのも得意だった。でもずる休みしてしまったのだ。 「おい、何かあったんかあ?」 井口先生の声で、唯は思い出したくないことを思い出してしまった。

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