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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「失礼ですけど、ロベールさんはご結婚なさらないんですか?」 「えっ、あ、ぼくは、その、心に決めた人がいるというか、  忘れられない人がいて。  まぁ、過去をずっと引きずってる重い人間と言われれば  それまでなんですけどね。  早く相手を見つけなさいって、両親からもよく言われます。    リュシルさんこそ、  そういうお相手いらっしゃらないんですか?」 「はい、全く。 私もロベールさんと同じようなものです。  恋人がいたのですが、種族の関係上、寿命が違いすぎて、  添い遂げることが出来なかった。  もうかなりの時間が経って、涙に暮れるほどの年でもないんですが、  どうしても他の方とお付き合いする気になれなくて...  お恥ずかしい限りです。」 「そんな。  それだけ強く想われ続けられているその方は幸せですよ。  ぼくは素敵だと思います。」 「そう、なんですかね、ありがとうございます。  そう言っていただけると、安心します。  この感情に後ろめたさはないんですけど、  何処かで想い続けることに躊躇いがあることもまた事実なので。」 「確かに。  ぼくもよく 『こんなに引きずっていたらあの人に嫌がられるんじゃないか』って思います。  恋愛の悩みがなくてお前は楽でいいなって言われることもありますけど、  全く楽じゃないですしね。」 「ほんと、その通りです。  なんだか私たち似ていますね。」 そう言って微笑む彼女に、ぼくは何と声をかければいいか分からなかった。 返した言葉は、もう覚えていない。 ただ、あのときほど自分の正体を伝えられたらと願った瞬間は無かった。 いや、別にいつだって伝えることはできたのだ。 「ぼくは君の元恋人で、何度も転生をして今ここにいる」と。 しかし、 それを伝えて何になる、むしろ彼女を傷付けるだけなんじゃないか、と 毎回伝えられずにいる。 今や一回目の人生とは随分遠い状態になってしまったが、 やはり彼女を傷付ける言動は最小限にしておきたいのだ。 好きな人には、笑っていてほしい。 まぁこんなの、 ただの意気地なしのヘタレだと言われても仕方ないけれど、 それでも、 終わりの見えないなか、沢山の人生を歩んで、色々なひとと関わって。 そうして記憶がどんどん薄れていくなかで色鮮やかに残るこの気持ちは、 ある意味ぼくにとっての希望だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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