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朝陽と共に目覚め、 まだ何処か他所の家にいるような感覚を半分もちながら自分で着替える。 「いつかのお屋敷の使用人さん、元気にしてるのかな。」 使用人さんに世話をしてもらうあの感じをふと思い出して、そんな言葉が口をついて出た。 忘れたことも苦しかった時期もあったけれど、思い出は嫌な物ばかりじゃない。 家族で朝食を済ませ、仕事に向かう父親を見送った後、 母親はいつにも増して楽しそうに、そして忙しそうに家事をこなしていた。 ぼくは洗濯物干しを手伝ったあと、るんるんの母親の背中を眺めてぼーっとしていた。 豊かな自然に囲まれ、近所の人はいい人で、家族も優しく、穏やかな家庭。 今まで、こんな場所に生まれたことはあっただろうか。 そんなことを考えつつ 「幸せだなぁ。」 自然とそう呟いたときに、馴染みのある言葉が頭によぎった。 『ぼくは何回死んで、何回生きればいいんだろう。』 転生をするたびに考えてきた話だ。 生まれたらいつか死ぬというのは当たり前だけど、 死んでもまた生まれ直してしまう以上、 生きるのが辛いときも、生きるのが幸せなときも、 いつもこの言葉がよぎる。 普通に生きる人生に水を差されているようで、あまりいい気分にはならない。 それでも心の何処かで 「彼女」との繋がりが保てるのなら、と思ってしまっている自分が怖い。 こんなの、もう依存と変わらないじゃないか。 種族が違って、寿命が違って。 生きて最初から最後まで添い遂げることのできないぼくたちは、 こうして歪んだような繋がり方をしている。 理由も、証拠もない不確かな繋がりだ。 終わりだって、分からない。 それは彼女が命を終えるときなのか、ぼくが彼女への想いを忘れたときなのか、 はたまた、ぼくと彼女がまた結ばれるときか。 分からない。 それについて、ぼくは何も知らない。 どれだけ考えたって、多分答えは出ない。 それでも、分からないまま生きていくしかない。 命を与えられたからには、その時間を生きなければならない。 残念ながら、今のところ、どれだけ生きたくなくても生まれ変わってしまうんだから。 それに、これは例えばの話だけど、 もし終わる条件が 「ぼくの想いが消えるとき」なのであれば、 ぼくはもうずっと転生をし続けるしかないのかもしれない。 だって、現に数百年経っても、 ぼくはずっと彼女に恋をしていて、彼女を愛している。 毎回転生するごとに、記憶を思い起こすたびに、彼女に惚れ直しているのだ。 だから、 ぼくはいい加減終わりを迎えることを諦めたほうが良いのかもしれない。 結局、 どれだけ生まれ変わっても、出会いがどんなに最悪でも、 多分ぼくはまた君に恋をしてしまうのだから。 惚れたら負け。決着はとっくの昔についていたということなのか。

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