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「俺一人だから遠慮しなくていいよ。家の中、散らかってるけど」 「じゃ、じゃあ」  雅が小さく頷いた。緊張しているような、照れくさそうな、微妙な感情が見え隠れする。  暁翔もなぜか照れてしまい、後頭を掻いた。  別に照れる必要はない。顔見知りの男を雨宿りさせるだけなのに、どうして気恥ずかしい雰囲気になるのか。  暁翔はまごつく手で引き戸を開け、雅を招じ入れた。  廊下を歩いてリビングのドアを開ける。和洋が混在する堂島家の一階は、リビング、ダイニング、キッチン、それから和室がある。八畳のリビングにはソファとテレビ、本棚などを置いてあり、暁翔は普段、隣の和室に布団を敷いて寝起きしていた。  築三十年は経過しているので古さは否めず、暁翔が一人暮らしをするようになってからはマメに掃除をしないせいで物が溢れ、雑然としている。床には本が散乱し、ソファには取り込んだままの洗濯物を山積みにしていた。 「うわぁ! ほんとに散らかってますね!」  雅が暁翔の後ろからひょこっと顔を出し、呆れながらも楽しげに言う。暁翔は「正直だなぁ」と苦笑した。 「暁翔さん、イケメンなんだから、もっとお洒落な空間でイケメンっぽく暮らしてほしいな」  軽口を言われ、つい鼻で笑う。 「なんだそりゃ。ていうか俺はイケメンじゃないよ」 「でも、モデルさんみたいに背が高いし、大人って感じでかっこいいです」 「無駄にでかくて老け顔の、平凡な男だよ、俺は。大体、男の一人暮らしの部屋なんてこんなもんだろ」  言いながら、濡れたTシャツを脱いで上半身を晒すと、雅が「ひゃっ」と言って両手で顔を覆った。 「? なんだ?」  まるで女性の前で着替えているようで、動揺する。 「き、急に脱ぐからびっくりしただけです!」  雅も動揺しているのか、顔を隠したままこちらに背を向けた。  男の裸を見て、そんなに驚くなんて。  同じ男だよな? と不思議に思う。 「えっと……花江君も濡れただろ。俺のでよければ服、貸すけど」  雅は少し逡巡した後、コクンと頷いた。 「借ります……」 「そこのソファに置いてるやつ、洗濯してあるから好きなの着ていいよ」  リビングにいたら、雅が着替えにくいのでは。  暁翔は濡れた体を拭くためのタオルを彼に手渡し、新しいTシャツを手に取って洗面所に向かった。脱いだ服を洗濯機の中に放り込み、乾いたTシャツを着て人心地つく。  洗面台に手をついて鏡を見ると、なんとも不甲斐ない顔をした自分が映っていた。  好きな女性をうっかり自宅に入れてしまい、これからどうしたらいいのか、どうもてなすべきか、と狼狽えている顔。

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