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 翌日の土曜日。  暁翔はテレビの番組表を見て、午後三時から夜の十一時まで放送する音楽番組にキラリボーイズが出演することを知った。  番組名は『冬の音楽祭』。多数の有名アーティストが順次楽曲を披露する、生放送のスペシャル番組である。  番組サイトの情報によると、キラリボーイズは午後七時頃に出演するようだった。最近は地上波の歌番組で彼らをよく見かけるようになったが、スペシャル番組への出演は滅多にない大舞台だ。メンバー達はきっと、緊張しながら出番を待っているだろう。  暁翔もそわそわしつつ、洗濯をしたり、掃除をしたりして番組の開始を待った。  午後三時、番組が始まるとさらに緊張が増し、雅は大丈夫かなと心配になった。  午後六時には『花江』で買ってきた弁当を食べ、七時が近づいてきた頃には満を持してテレビの前のソファに座った。丸いクッションを膝の上に置き、賑やかな音楽番組を、固唾を呑んで見守る。  番組の司会者は黒いスーツを着た中年の男性アナウンサーと、赤いドレスを着た若い女優だった。  ステージ上はヨーロッパの宮殿をイメージした豪華なセットが組まれており、色とりどりの照明の光が飛び交っている。大勢の観覧客がペンライトを手に歓声を上げ、アーティストの音楽を楽しんでいた。  CMが開け、アナウンサーが『さあ! 続いては新メンバーが加入したキラリボーイズのみなさんです!』と声を張り上げた。客席からキャーッと黄色い歓声が沸く。  暁翔はクッションをギュッと抱き締めた。  ステージの袖から笑顔で登場したフロントの六人は、薄いピンク色のスーツの衣装を着ていた。スーツの生地には上品な光沢があり、同色の蝶ネクタイを締めている。  雅は少し緊張した面持ちで、手を振って歓声に応えていた。エレガントな衣装が彼の美しさを引き立てており、目を奪われてしまう。 「綺麗だ……」  暁翔は独り言を呟き、我に返って溜息をこぼした。やっぱり好きだと再認識し、気落ちしそうになる。だが友達の歌とダンスを観覧するのだと必死に意識を切り替え、テレビ画面に集中した。 『今夜のキラリボーイズは、新曲を披露してくれます』  アナウンサーが説明すると、メンバー全員が「よろしくお願いしまーす!」と元気よく頭を下げた。  画面に華やかな女優が映り、『それでは、新メンバーの花江君にお話を伺います。今の心境を教えていただけますか』と、雅にインタビューをした。  雅が『はい』と笑顔で応じる。 『僕は十年、キラボのバックダンサーでした。いつかフロントに選ばれたいという夢を持っていたので、今はとても嬉しいです』 『十年! 待ちに待った感じですね』 『正直、もうだめだと思ったこともありました。選ばれたときは嬉しかったのですが、僕で大丈夫なのかなって、すごく不安になったんです。でもある人が僕に、がんばれと、雅なら大丈夫だと言ってくれました。僕が今ここに立っていられるのは、その人のおかげです』  女優がうんうんと頷く。 『なるほど、恩人ですね』 『はい。僕にとってその人は……とても大切な人です』  雅が画面にアップで映し出された。笑顔が消え、真剣な眼差しで真っ直ぐにカメラを見据える。  暁翔はテレビの向こうから、見つめられているような錯覚に陥った。 『その人と一緒にいると癒やされて、声を聞くと安心して、なんでもないことが楽しくて……いつも、会いたいと思っています』  切なげに言葉を紡ぐ。まるで恋しい気持ちを募らせているように。  司会者の二人が怪訝そうに顔を見合わせた。雅は一体、何を言っているのだろうかと。  客席もざわつき始める。キラボのメンバーも心配そうに雅を窺う。暁翔も不安になる。  アナウンサーが苦笑いを浮かべて尋ねた。 『えーと、花江君? その人っていうのは、まさか今、噂の……』  カメラが聖哉の顔を映した。聖哉は目を丸くして、俺ぇ!? 違う違う、という風に顔の前で片手を振った。 『その人は、お茶をいれるのが上手で、羊羹が好きな甘党なんです』  お茶と羊羹……。 (ん?)  暁翔は瞬きをした。  雅は暁翔のいれるお茶を、おいしいと言っていつも喜んでくれた。一緒に羊羹を食べ、おやつを楽しんだ。  彼が言う『大切なその人』とは、一体誰のことなのか。 (まさか……?) 『僕はこの場を借りて、その人にどうしても伝えなきゃいけないことがあるんです。きのうは言えなかった、僕の、ほんとの気持ちを……!』  雅が思い詰めたように一点を見つめた。  マイクを持つ手が震えている。顔面は蒼白、画面越しでも心拍数の上昇を感じられる。 『花江君!?』  困惑するアナウンサーをよそに、雅は小刻みに震える口を開いた。 『その人の……いえ、彼の、名前は……!』  聖哉が血相を変えて叫んだ。 『雅ちゃん、それ以上言うな!』  メンバーも『花江君、だめだよ!』と言って雅を取り押さえようとした。  雅はもがき『言わせてください!』と懇願している。司会者の二人はオロオロし、ステージ上は大騒ぎ。客席も騒然としている。  暁翔は身を乗り出し、テレビ画面に向かって「雅!」と大声を発した。  生放送のテレビで何を言うつもりなんだ。その人に伝えたいほんとの気持ちって何だ。きのうは言えなかったって、まさか、その人ってのは……。 (俺……なのか?)  雅は暁翔の名前を呼び、大切な人だと公表するつもりなのか。そんなことをしたら世間が大騒ぎになる。フロントを降格になるかもしれない。あるいはクビに……。  暁翔の心臓が早鐘を打つ。下唇がガクガクと戦慄く。 「やめろ! 何も言うな!」  しかし暁翔の声は届かない。  雅が隙を見てメンバーを振り切り、マイクを握り締めた。  誰もがあっと息をのんだ瞬間、

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