作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 まずはエプロンを身につけた金髪の聖哉が大きく画面に映る。一見してチャラく、高慢な顔つきと口調だ。趣味のサーフィンのせいで肌が日焼けしており、少し浅黒い。いかにもパリピという雰囲気である。 『というわけで、もうすっかり食欲の秋だよね! おいしいものが大好きな俺、安曇あずみ聖哉せいやが今回は料理に挑戦するよ! 手伝ってくれるのはこいつ!』  カメラが引き、聖哉の隣に立つエプロン姿の雅が映る。緊張している様子だが、画面越しでもかわいい。 『花江雅です! 聖哉、今日はよろしくね』 『よろしくぅ! こいつ、こんなかわいい系なのに、実は俺より年上なんだぜ。信じられないっしょ?』  十九歳の聖哉が、二十六歳の雅の背中をバンバンと叩く。まるで小馬鹿にするように。  暁翔はムッとした。背中を叩く手つきにも眉根が寄るし、年上の雅をこいつと呼ぶことにも悪印象を抱く。 『こら! 聖哉! こいつって言うな!』  テレビの中で雅が聖哉を叱りつけた。 『へっ!? 』  まさか怒られるとは思っていなかったのだろう。聖哉が目を見張った。 『生意気な子はこうしてやるー!』  雅は聖哉のエプロンの紐をぐいぐい引っ張り、彼を縛りつけた。バラエティ番組らしい、ふざけた感じなので笑える範囲だ。 『いてて! 苦しいよぉ! 雅ちゃん、すんませんでした!』  ところが聖哉は大慌て。反撃も予想外だったらしい。 『わかればよし! さあ作るよ!』  こんなキリリとした雅は初めて見た。チャラい聖哉に対して萎縮するのではと思っていたのに、真逆である。  暁翔は瞬きをし、隣の雅を見た。 「雅と聖哉って、いつもこんな感じなのか?」 「ううん。聖哉とは初めて絡んだし、普段も喋らない。ただ、聖哉って表でも裏でもこんな感じだから、まだ十九歳のくせに生意気だって周りから言われてるんだよね。人気があるせいで、みんな遠慮して注意できないんだけど」  雅がふふっと笑む。 「僕はどうせキラボをやめるし、収録しても放送されるかわかんないし、って思ったら、もう好きにやろうって決めて言っちゃった」  テレビの中では包丁の使い方が危なっかしい聖哉に、雅がビシバシと的確なアドバイスをしていた。普段は生意気な聖哉が、オロオロしながらオムライスを作っている姿はなんだかおもしろい。雅はさすがに手際が良く、調理のワンポイントアドバイスも入れてくる。  雅と聖哉は次第に母と息子のようなやり取りを始め、最後は出来上がった料理を試食した聖哉が『うめーっ! 雅ちゃんは俺の母ちゃんっすか!』と叫んで周囲のスタッフが爆笑したところでコーナーは終了した。  暁翔はしばらく呆然としていたが「おもしろかった……」と呟いた。 「ほんと?」  雅が不安げに問う。 「うん。次があるなら見てみたい。マジでおもしろかったよ」  そう言うと、雅は心底ホッとしたように「よかったぁ!」と言ってクッションを放り投げ、暁翔の胸に抱きついてきた。栗色の柔らかな髪を揺らし、子猫のようにスリスリと頬ずりをしてくる。 (お、おいおい! かわいすぎるだろ!)  暁翔の鼓動が高鳴った。  友達って言ったよな? 友達ってこんな距離感だっけ?  わからない。ただただ狼狽えてしまう。  が、嬉しい。胸の奥で嬉しい気持ちがホクホクと湧き上がってくる。できれば雅の肩を抱きたいけれど、友達として許される範囲だろうか。少し不安だが、先に近づいてきたのは雅だ。この前はハグもした。肩を抱くくらいはきっと大丈夫……。  ぎこちなく、彼の華奢な肩に腕を回した。  雅の笑みが深まり、より強く抱きつかれる。頭にはふわふわした子猫の耳が、お尻にはしっぽがありそうなほど愛らしい。 (うおー! かわいい!)  悶絶しそうになった。かわいさが胸に刺さって苦しい。力一杯抱き締めて頬ずりしたくなる。クールな大人の男を逸脱してしまいそうで怖い。  客観的に見たら、今の状態は恋人同士のいちゃつきだろう。 (ち、違う! 友達同士で喜びを分かち合っているだけだ!)  脳内の言い訳が苦しいのは、気のせいか。  暁翔は小さく首を横に振った。違うんだ、と必死で抵抗し、キラボチャンネルの料理コーナーに思考をチェンジした。  本当に、おもしろいコーナーだったことに間違いはない。  スマホでSNSを覗いてみると、視聴者の反応もいい。聖哉のファンは、いつもと違う聖哉が見られて楽しかったと喜んでいる。キラボの中ではおとなしいイメージがあった雅も、かわいいのに手厳しい母親みたいだと評判になっていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません