作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 雅が楽しそうなので暁翔もやる気になり、動画サイトを検索した。  京介に対して学生気分が抜けないと言ったが、自分もそうだなと思いつつ、暁翔はハロウィンの仮装をするノリで雅の女装を手伝った。今は劇団の不安を忘れ、雅と楽しい時間をすごしたい。  メイクを指南する動画を参考にしながら、舞台用の化粧品で雅にメイクをする。物置部屋からセミロングのウイッグも探し出して頭に被せた。  やがて──。  淡いピンク色の浴衣を着て、髪にリボンを結んだ雅は、飛び切りかわいい女の子に変身した。キラキラと輝く女子大生のようである。  暁翔は男物の浴衣を着た。クールな面立ちと濃紺のシックな浴衣は相性がいい。涼やかながらも男の色気が溢れる姿となり、雅が口元を押さえて「ひゃあぁぁ!」と歓喜の声を上げた。 「かっこいい! モデルさんみたい!」 「そ、そうか?」  二人で悪戯をしかける子どものように、わくわくしながら商店街の祭りに向かう。 「雅はすっごくかわいいな!」 「ほんと? 男だってわかんない?」 「喋らなきゃ絶対わからないと思う。かわいくて綺麗な女の子だよ」 「やったぁ、うまく化けられた!」  女装姿の雅になら「かわいい」と平気で言える。暁翔はここぞとばかりに雅を褒めちぎった。雅は「言いすぎだよー、暁翔のほうが素敵だよ」と照れたり、笑ったり。  団地の坂道を下って商店街にさしかかると、弁当屋『花江』の小さな店構えが見えた。 「この格好で、雅の家に行ってみる?」 「やだ! 絶対やだ。姉貴に大笑いされる!」  二人は夏の終わりを告げる、小さな祭りをそぞろ歩いた。打ち上げ花火は上がらないけれど、商店街のこぢんまりとした祭りも風情があっていいものだ。  たこ焼きやりんご飴を売っている出店を眺め、金魚すくいではしゃぐ子どもに目を細める。  暁翔が綿飴を買って雅に渡すと「ありがとー! 食べたかったんだ」と、彼は頬をピンク色に染めた。  弾ける笑顔に胸がときめく。まるでデートをしているみたいで楽しい。  連なる出店の先に風鈴を売っている店を見つけ、暁翔は足を向けた。リビングに風鈴を吊したい。雅に選んでもらおうと思い振り返る。  すると隣にいるはずの雅の姿がなかった。どこかではぐれたらしい。  慌てて辺りを見回すと……。  雑踏の中、雅がニヤニヤと笑う大学生らしき男の二人組に囲まれていた。ひどく困った様子で、綿飴で自分の顔を隠している。男達から逃げようとするが、身動きが取れないでいた。どうやら腕を掴まれているらしい。 (雅!?)  暁翔は急いで人を掻き分け、彼の元へ向かった。 「お姉さんかわいいねぇ。今から俺達と一緒に、カラオケに行かない?」 「ねぇねぇ、何とか言ってよ」  男達は雅をナンパしていた。  雅は顔を隠して黙ったまま、懸命に首を横に振っている。 「ねぇ、なんで喋ってくれないの?」 「喋ってくれないと、この腕、離してあげないよ?」  声を出せばすぐに男だとばれるだろう。いくら声音が高めでも男の声だ。さすがに誤魔化せない。ばれたらどんな罵声を浴びせられるかわからない。 「おい! あんたら、この子に何か用か」  暁翔は考えるより先に、雅の腕を掴んでいた男の手を剥がした。すぐさま雅の肩を抱き、細い体を自分のほうへ引き寄せる。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません