雅と手を繋ぐ以上に触れ合ったら、自分はどんな感情を抱くのだろう。 暁翔はシャワーを浴びながら、ぼんやりと考えた。 雅のことは気になるけれど、それはあくまでも顔が好みだから。 抱き合ったとしても、さすがに女性に対するような性的な欲求が湧くとは思えない。何せ彼は男。男に興奮したことなど一度もない自分が、男を抱きたいと思うはずがない。 そうか、雅への恋愛感情みたいな気持ちは、ただの勘違いだ。 と、暁翔は結論づけた。 顔が好みすぎて、思考が大きな勘違いを起こしているに違いない。かわいい浴衣姿の彼と手を繋いだことで、勘違いが増長してしまった。友達以上に思い始めるなんて、度を超えている。 目を覚まさなければ。雅は友達だ。それ以上なんてあり得ない。 ぬるめの湯を頭から浴び、湧いた思考を洗い流す。 風呂場を出てTシャツと短パンに着替え、和室に足を踏み入れた。和室には二組の布団が敷かれている。雅が泊まるときはいつも、布団を並べて眠る。 雅はすでに横になり、薄い夏布団を体にかけて背中を丸めていた。Tシャツと短パンという、暁翔と似た格好だが、細い体はどこか艶めかしい。 華奢な肩のライン、カーブを描いたウエスト、小さいけれど丸みのある尻、そして意外と引き締まった筋肉のある足。しかしごつさはなく、しなやかな脚線美を持っている。 暁翔は彼の体のラインを視線で撫でた。思わず喉が上下し、慌てて首を振る。 (ないない!) 深呼吸をして気持ちを落ちつかせ、自分の布団の上に腰を下ろした。 雅はもう眠ったのだろうか。もしそうなら起こしたくない。 布団に手をつき、そっと近づいて様子をうかがうと、雅がゆっくりとまぶたを上げた。 視界に映った暁翔の手をじっと見つめている。大きく、節くれだった手を、何か物思いにふけるように。 「……雅?」 寝ぼけてるのかな、と思いながら顔を覗き込むと、長いまつげに縁取られた目許がハッと見開いた。焦ったように体を反転させ、暁翔に背を向ける。 「な、何?」 「いや、別に」 (俺の手、何かついてるのか?) 暁翔は自分の手のひらや甲を、ひっくり返して確認した。が、特に変わった様子はない。 ただ、この手で雅と手を繋いだ。 互いの体温と緊張と、そしてときめきを感じながら握り合った、手──。 落ちつかせたはずの鼓動が、再び高まり始める。 手を繋いで歩いたときの、ひどくドキドキした感情がぶり返し、いてもたってもいられない。 狼狽する姿を見せたくなくて、暁翔は急いで部屋の明かりを消した。布団を被って横になる。 もしかして雅も、手を繋いだことを思い出して焦ったとか。 つまりは暁翔を、意識している? (まさか、考えすぎだ。俺だって意識してるわけじゃない、はず……) 雅が泊まるときはいつも、気楽なおしゃべりをした後「おやすみ」と言って眠るだけなのに、今夜はどうも調子が狂う。 考えるのはよそう、さっさと寝てしまおう。 暁翔が目を閉じたとき、雅が遠慮がちに声を発した。 「ね、聞いてもいい?」 暁翔の肩が小さく震えた。 「あ、ああ。何?」 「あのね……暁翔が大学生の頃に一緒に住んでた友達って、京介君?」 思いがけず京介の名前が出たので、少し驚いた。だが、モヤモヤした思考から逃れられて安堵もする。息をつき「そうだよ」と答えた。 「やっぱり。そんな感じがした。二人の間に遠慮がない雰囲気だったから」 「あいつとは、つき合いが長いからな」 「京介君と劇団の話をしてたの? 次の公演のこと?」 「ああ。大したことじゃないけど……いや、大したことか」 暁翔は京介が演出家、西園寺から脚本を依頼されたことを掻い摘まんで説明した。 雅が寝返りを打ってこちらを向く。 「西園寺さんって有名な人じゃん! 京介君って才能があるんだ」
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