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「そうだな。あいつは役者としても、脚本家としても才能がある。俺とは違って、これから演劇人として大きくなる可能性を持ってるんだ。いいよな」 「……羨ましい、の?」  暁翔は暗い天井を見つめて嘆息した。 「うん……。雅にだから本音を言うけど、俺も京介みたいな才能がほしいと思ってた。そしたらプロの演出家になれるかもしれない。そうなれたら最高だなと思ってたよ」 「思ってた……。過去形なんだ」 「まあな。俺にはプロでやれるほどの才能はない。京介みたいに就職せずに、芝居に打ち込むストイックさもない。趣味としてやるのが一番合ってると思う」  誰もがなりたい職業に就けるわけではない。努力しても叶わない夢はある。アイドルをやめなければならない雅になら、気持ちをわかってもらえる気がした。 「そっか……。それも一つの選択だよね」  雅の声音は優しい。 「それとさ、これは憶測なんだけど、京介が『西園寺企画』の舞台を成功させたら、リアルは解散する気がしてるんだ」 「どうして?」 「多分、京介は次の舞台の脚本も頼まれる。もしくは他の劇団から声がかかるはずだ。そうなったら自分の劇団に構う余裕はなくなる。看板役者が二人も抜けた状態で、俺が劇団を引っ張っていくのは無理だろうし」 「二人?」  暁翔は退団予定である梨乃のことを話し「劇団がなくなるのは寂しいけど、仕方ないよな」と自分に言い聞かせるように言った。  形あるものはいつかなくなる。何事も諦めが肝心だろう。心の奥底では京介が羨ましくて堪らないし、劇団を終わらせるのは辛い。  しかし、自分がやれることに限界があるのも事実。夢を見る年齢ではなくなったのだろうなと、感傷的になる。 「暁翔がそれでいいなら何も言えないけど……ただ、最後まで精一杯やってほしいなって、僕は思うかな」  横を向くと、真っ直ぐに自分を見つめる雅と目が合った。  薄暗い部屋の中で、整ったかわいい顔が優しい笑みを浮かべる。 「僕、暁翔を応援するね。暁翔の力になりたい」 「雅……」  彼がそばにいてくれるなら、京介が不在の冬公演も乗り切れるのでは。重くのしかかっていた黒い雲が、少し晴れたような気がしてきた。 「ありがとう」 「ううん。応援って言っても、具体的に何かを手伝えるわけじゃないけど」 「構わないよ。時々、こうしてこの家にきてくれたら、それだけで」  一緒にいるだけで癒やされる。会って、くだらない話をして、おいしいものを食べて。そんな毎日がこれからも続けられるなら、どんなにいいだろう。 「僕、オフの日はできるだけ暁翔の家に行く!」  雅が真剣に言う。 「無理しなくていいからな。俺、次の冬公演が最後だと思ってがんばるよ。観に来てくれる?」 「もちろん」  雅は明るい笑顔を見せ、それからふうっと息を吐いた。  暁翔と同じように天井を仰ぐ。 「暁翔が本音を教えてくれたから、僕も言おうかな」 「何かあったのか?」 「うん……。今日の仕事終わりに、マネージャーさんから次の仕事の話を聞いたんだけど、次が最後の仕事になるんだって」 「最後……」  確実に終わりが近づいている雅のアイドル人生を思うと、胸が痛む。 「どんな仕事なんだ?」 「えっとね、キラボチャンネルっていうテレビの仕事だよ」 『キラボチャンネル』はBSで毎週深夜に放送されている、キラリボーイズのフロントメンバーがメインで登場する三十分番組である。  歌の他に、メンバー同士が様々なことに挑戦するバラエティコーナーがあり、暁翔は雅と親しくなって以来、録画して密かにチェックをしていた。  雅がバックダンサーとして出演する可能性があるのだ。アイドルとして活躍する姿を観てみたい。そう思い、毎週欠かさず視聴している。 「キラボチャンネルに出るのか! 結構すごいことなんだよな?」  バックダンサーの中でも、この番組にはダンス力のある人しか出られない。 「うわっ、マニアックな番組なのに知ってるんだ!」 「ま、まあな」  雅の活躍を知りたいため、最近はずっと、キラボの活動を気にかけている。ファン同士が交流するファンサイトを覗くこともあり、図らずもキラボのファンになりつつあった。 「で、ダンサーとして出るのか?」

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