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 すると雅がウイッグをガバッと取った。 「ウイッグって暑い! 女物の浴衣も暑くて汗だくだよ! 女の子って大変なんだね。先にシャワー借りていい?」 「ど、どうぞ」 「ありがと。手も……ありがとね。ナンパされて、結構びびっちゃってたんだ」  照れ隠しなのか、雅はいつもの明るい調子に戻って浴室に駆けて行った。  暁翔は一人、リビングのソファに腰かけて脱力した。何かがやばい、と感じていた。  雅がナンパされているのを見て本気で焦った。手を繋いでかなりドキドキした。いずれも同性の友達には抱かない感情だ。  もはや自分は、雅を普通の友達だとは思っていない。何度打ち消しても、ブレーキが壊れた車のように突き進んでいく。  雅が気になって仕方がないと。 (こんなの、まずいって)  このまま一緒にいたら、どうなるのだろう。  同性愛者になってしまったら、どうしよう。  怖い。  同性愛者は何か得体の知れない、自分とは異なる別世界の人間だと思っている。自分には理解できない存在だと。マイノリティゆえ、世間には冷たい目で見る人もいる。  突然、スマホが音を鳴らしたので暁翔はビクッと肩を揺らした。  スマホの画面をタップすると、京介から『よ!』という短いメッセージが届いていた。京介に似たタヌキが、片手を上げるイラストのスタンプもある。 『よう。何?』と短く返信した。 『あれ? 返信速いな。雅ちゃんは?』 『今、シャワー浴びてる』  数秒後、京介から返信が来た。 『お、おう。エロいなぁ』  エロい? 『何言ってんだ?』 『またまたぁ。雅ちゃんと仲良うしとったんやろ?』  仲良く? まあ、手は繋いだが。  ……まさか、見られていた!? 『み、見たのか?』  背中に汗をかきながらメッセージを送信すると『誰が見るかいな!』と即座に返信が来た。タヌキが怒っている。 『おまえら、つき合うとるんやろ?』  一読してギョッとした。 『つき合ってねえよ!』 『照れんでもええって。ほんで、やっとったんやろ?』  やっとったって……。  スマホを持つ手がぷるぷると震えた。完全に誤解されている。 『断じてやってない!』 『ほな、これからか。男同士ってどうやるか、よぉわからへんけど、ローション使うん?』 『俺はホモじゃねえよ! 勝手に勘違いするな!』 『え!? あんなにデレデレしとったから、てっきりつき合うとると思ったのに』  デレデレ!? 俺が!?  血の気が引いた。  周りから、おまえはいつでもクールだと言われる自分が、まさか雅の前でデレデレしていたなんて。 『俺が……ほんとに?』 『自分で気づいてへんのか?』 『うん……』 『いやぁ、恋愛は自由やし、お互いに好きならええかと思うて俺、さっさと帰ったんやで。今まで女とつき合うてた暁翔が男なん!? ってびっくりはしたけどな』 『俺は誤解されたことに驚いた』 『あながち誤解やないかもよ? 自分の胸に手を当てて、雅ちゃんのことをよーう考えてみたらどうや?』  まさに今それをしており、やばいと思っていたのだ。  そのとき風呂場の扉が開く音がして、雅がシャワーを終えた気配がした。もうすぐリビングに戻って来る。  暁翔は急いでメッセージを送った。 『用事がないならもういいだろ。じゃあな』 『おう、舞台の演出よろしゅうな! そんだけ!』  スマホをスリープ状態にした次の瞬間、リビングのドアが開いた。 「お待たせ。シャワーありがと」  すでに勝手知ったる他人の家、雅が冷蔵庫を開け、冷茶の入ったボトルを取って喉を潤す。 「ああ。雅、今日は泊まっていくだろ」  雅は少し間を置いてから「……うん」と頷いた。 「都合が悪いのか? それなら」 「ううん、大丈夫だよ」  ぎこちない笑顔を返される。冷茶を飲んでクールダウンしたはずなのに、頬が赤い。  不安げな暁翔を安心させるように、雅は「ほんとに大丈夫! 明日の仕事に支障がないかなって、ちょっと考えただけ。問題ないから泊まらせてもらうね。今から家に帰るのは面倒だもん。泊まりたいな」と明るく言った。

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