やがて小雨になった頃、暁翔のスマホに劇団員からメッセージが届いた。 来年の一月に行う芝居について、近いうちに打ち合わせをしたいと書いてある。 了解と返信していると、雅に「……彼女?」と遠慮気味に問われた。 「違うよ。京介っていう劇団の友達。俺、彼女いないから」 雅の目が丸くなる。 「そうなの!? もてそうなのに」 「えっ、いや、まあ、その……」 もてないわけではない。というか、正直なところ結構もてる。紹介してほしいと頼まれることは度々あるし、同僚とのつき合いで飲みに行けば逆ナンされる。 会社では、真面目に働いて持ち家もあるから結婚相手にぴったりだと言われ、上司から何度か女性を紹介されそうになった。 だけど最近は全て断っている。ナンパされても応じない。女性と適当に遊びたいわけではないのだ。 周囲の友達は次第に結婚を意識した人とつき合い始めている。彼らを見ていたら、自分もいつか結婚したい、自然と心惹かれる人とつき合いたいという気持ちがあった。 雅が女性なら……恋に落ちただろうか。 妙な考えがふと過ぎり、暁翔は微妙に緊張しながら尋ねた。 「雅はつき合っている人……いるのか?」 彼はニコッと微笑み「いないよー」と軽く答えた。 心のどこかでホッとする。そしてまた、俺はゲイじゃないだろ、安心する必要はないってのに、と自分に突っ込みを入れた。 雅が空を見上げ「あっ、雨上がった!」と明るく言った。 「Tシャツは明日返すね。じゃ、またね」 元気よく手を振って帰って行く彼を見送る。 桜の花のように目を引く華やかな美貌、口を開けば案外陽気で楽しい。年上なのに子どもっぽくて、ふわふわしていて、男臭くなくて。 女性から見れば、雅は頼りない感じの男性だろう。でも暁翔にはかわいく見える。彼のことをもっと知りたい気持ちが湧く。 その夜は布団に入っても雅の笑顔が脳内をちらつき、交わした会話が繰り返し再生されて、なかなか寝つけなかった。理由はわからないが、こんなに誰かが気になるのは初めてだ。
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