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「死体と まぐはひて 愉しかりつや。」と 覗き込み、いかなる心なるらむと うかがへば、口もごめかせて、目そらし うろたへて、汗ばみて、あわつる心いださじと、きみがおもて、心病める人に仿たり。あまり すさましく、うとましきを、もはや あられず。などて 今まで、と あさましくなりはてぬれ、やすく絶ゆべきかは。 「よし、汝がためならば、死体にもなりてむ。いざ 殺せ。」と、たはれかくれ、さすがに たへがたしと見えて、出でてゆきつ。 我はただ、あやまり言を 需つにはあらずて、みづからの なしつる おこなひを あかして、よこしき心ながら 澄みてあへるを 待つばかりなり。 あやまりて、さて、いかにならむ。みづからの 悪しかるをば、内にも 外にも すでに あきらかなり、いかにも なほらぬを、かかる うはざまの まぬかれ言など ひとり あからさまに 心はるくばかりし、げには はかもなし、と、主にも、しみて しりければ。 主も、さこそ さとりたれ、己が力うたてくて、女をいためつけつとても、心やましさ いたはしさからに、あやまちとだに みとめぬなり。そのさまは、つらあつく、ふてぶてしく、にくにくしくこそ 見ゆれ、これぞ この人なり とこそ さだめて のちも おなじくしなさむを、心つよくして、ひろらかに、うけたたむとす。 さる、あくる日、あが扉ひらきて 向かひ来ける、なにごとも なかりけるごと、なべてやうに もてゆかむとするに、「忘るとやはおもふ、なしつることをば かろかるまじ。」と、罪なひ告げてより、かばかり心やましき人とは えあるまじと、いかりをあらはに すげなくもてなして、へだてて 一日をすぐすほどに やくやく 心なぎて、きみを かばかり おひつめてける、わが つれなさこそ つきなけれ と心にいたり、これをのろひて、いかに わびしかりけるらむ と、いたはしく、かたじけなくなりぬ。 主には、いかに 漏らすまじと、せめて つつまむとして;三人ともに食するにも、「なにともなし。はかなき いさかひなり。」とて 言かはさず、目もあはせで;きみ 去にてのち、さしむかひて 心ゆるびては たへずなりにて 涕きそほつなど、わりなくて、またの あくる日、心ややく さめつきては、かろらかに、「你は、薬くらはせて ねぶれるあれを をかすわざをやはする、」と、かすむれ、主、これぞ、かくろへる、きみがためしなりけり と たちまちに いたりて、されども、ひとり 闇に かねけるごと、いかりたぎり、きみがへ せめうちゆく などもせざり、おだやかに あきれはてて、さこそゐてあれ、これを、かろがろしくは とりなすまじ。言かくれど、耳にも入らで、心あなたへ行くやうなり。さても すべなければ、例の、なぐるさに、「これより、ここに入るまじく もてなすべし、」とはいふに、「えあらじ。你に あはずなりなば、きみは死ぬべし、」と こたへ返す。「これより、一人にて あらせむ。」など、心にもあらぬことし出でて、今は我のみとあるを すかしたまふ。たとひ、さのぞむとも、あらずなるべかりける人を、あながちに ひきもどさしめて、かれが命のはてまでも そこがむたなれ。 きみと 主と 二人あるとならば、吾れは ここを出でてゆかむに、さはりもあらず と かわらかに おきててあるものから、きみに ひかれて 仲 ちぢまりて、かばかり あなづらはしかりつる ためしそら、かすみゆき、いらなさも はかなくなりて、おもては つねのごとなりぬる夜、きみが涙いみじくて、つひに 心やれぬ と見えて、ただ うはごとのす あやまりかへし来るを;己が かだましきに いまさらに いたるにもあらじ、また、これより 心あらためむと おきつる かまへも あらざめる;ひとへに やましみ たへがたきを あぶして わぶるをば、かひなみ、すでに いかりも さめたれ、いらへもせず、涙洟、鬚にしみたまりて、をとこじものも さまなくなりにたり、とすさましく、つめたきを、ただ いとほしく あはれなれば、なで さすりつつ、胸にかかへて、いづかたの身とも 分かずなるまで 分かちあふ。 吾れとあるには、寝入りの たぎたぎしくも 見えねば、いぶかしくて、たしかめむすれ、主、きみに 口かためせられて かくさふ とやも わきがたけれど、この きみの いかなる医師のがりゆく とも 知らざなり。 いまだ 傷ましくて、たへかてに 泣く あれを、たづねも出だすまじと あからみては、やさしく 肩をよして、この かなしみする ゆゑよしを しらぬながらも、なぐさめたまひける 気はひ たのもしく なつかしく、また、ちかごろは、ちかく 寄れるためしも なくてあれば、きみとあるにも いまだ さうざうしく、ただ、この人の きはぎはしさに、おほほしき胸を きめられまほしくして、おとづる。 心かよへれか、かかれる おほ事には たえてふれで、なべてより かろびて、異物を 我につかはしめ 我みづからに ほどこさせむとする、さすがに たのしき人が もたる、まめやか物と まがふがに こりてつくられたるを、しげしげと見ては なでつつ、はぢて えもせざれば、主、つと立ちて 室の灯りを暗くなしたまひて、さても 致すまじと見れば、その手に とりもどして 迫めむとするにも、「我には 汝に聞こえいみじとや否ともなむ判かねば、まねびとらむとするを、」と くちをしび、なほも たゆたふ。ただうどならば、女に聞こゆるをもて観るものを。女がおもはくまでも かまひたまふ、この人が心ばへの めづらしきを 見つるやうなり。 かくて、いつ はなれぬ とも しられぬ、浮かびたる仲なれども、ままにまかせてあらば、おこることごと、ゆるしがたくとも、こひしさに むもれて、にくし、かなしと おもひ へづれつつも、あるべくなりぬるぞ つねなる、たのもしや。

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