ボンボヤージの魔法の杖
短編集 第二話

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彼の名前は、ボンボヤージ。 みんなの幸せを喜べる人になるように、お母さんがつけてくれた名前。 ボンボヤージのお父さんは、船乗りで、世界中の海に出掛けています。 あんまり会えないけど、日焼けをして、くしゃっと笑うお父さんが大好きです。 ボンボヤージは、少しだけ体の弱いお母さんと一緒に、空気の良いこの街に、最近引っ越してきました。 友達も、近所のおばさんも、新しく知り合ったばかりで、まだ、あまり話していません。 ある朝ボンボヤージは、 お母さんお得意の粗くつぶしたゆで卵をマヨネーズで和えたサンドイッチと、ハムが沢山入ったコロコロポテトサラダを持って、引越してすぐに大好きになった森に出かけました。 サンドイッチはゆで卵を粗くつぶすところが美味しさの秘密で、ハムを沢山入れたポテトサラダは歯応えがあって癖になります。 引っ越す前は、車ばかりの街だったけど、今は違います。 空気が綺麗だと外で食べるサンドイッチの美味しさは 何倍にもなります。仲良しの友達と離れたことは寂しいし、 こっちで友達が出来るか不安もあるけど、お母さんの病気には最高の場所だから、ボンボヤージは笑顔でいることに 決めました。 家の近くにある、その森は、アフロディーテの森といいます。 ちょっと薄暗くて、 新しい学校の友達は、あまり近寄りません。 森の奥には、怖いお爺さんが住んでいるなんて噂もあるからです。 でも、ボンボヤージには、 この森は、自分らしく楽しめる お気に入りの場所になりました。 きょうは、ちょっと奥まで探検です。 お母さんは、あまり奥まで行かないようにと言うけれど、 きょうは、気持ちの良い風が吹いているし、ちょっとだけなら、いいよね。 しばらく歩いていくと、なにやら、 古いお家が見えました。 ボンボヤージは、お家の近くまで行ってみることにしました。 かなり、古そうなお家だけど、 広い庭があって、色んな色のばらの花が、たくさん咲いています。 ボンボヤージは、お家を発見したとき、噂の怖いお爺さんのお家かな?と少しだけドキドキしましたが、 こんな綺麗なお花が咲くお家だもの、 きっと、素敵な人が住んでいるんだろうと、ワクワクしました。 そろそろ帰ろうとした、その時、お家から声がしました。 「坊や、お庭を見せてあげようか?」 ボンボヤージが振り返ると、そこには、痩せていて背の高い、まーるい帽子をかぶった お爺さんが立っていました。 でも、怖くはありません。 お爺さんは、ニコニコ笑って、ボンボヤージに、こう言いました。 「これから、ランチを食べるんだけど、一緒にどうだい?でも、もしお腹が空いていないなら、何か飲んでいかないかい?」 ボンボヤージは、いつもお母さんから、知らない人には気をつけるように言われています。 だから、お爺さんに、こんな返事をしました。 「お爺さん、ご親切をありがとう。 でも、お母さんに心配をかけたくないので、きょうは帰ります。」 すると、お爺さんは、ニコニコしながら、「坊やは、優しい、いい子だね。 よし、こんな森の奥まで来てくれたお礼に、とっておきの記念品をあげよう。」と言って、何やらポケットから、棒のようなものを取り出すと、ボンボヤージに、そっと手渡しました。 「お爺さん、この棒のようなものは、 なーに?」 ボンボヤージが、目をクリクリさせながら不思議そうに尋ねると、 お爺さんは、こう言いました。 「それはね、魔法の杖だよ。君の願いが何でも叶う、不思議な杖さ。」 その魔法の杖は、細い何かの枝のようでもありました。 お爺さんが、せっかく僕にくれるのだから。と、ボンボヤージは、優しく受け取りました。 「また、いつでもおいで。」 お爺さんは、やはりニコニコしながら手を振りました。 ボンボヤージが森を出た所で、犬を連れた、小さな女の子に会いました。 女の子は、なにやら怯えています。 「どうしたの?」と、ボンボヤージが声をかけると、女の子は声を震わせて言いました。 「カマキリがね、そこにいてね、道を通せんぼしているの。」 見ると、カマキリが、カマを持ち上げて、犬と女の子の前で、ジッとしています。 「僕に任せて」 ボンボヤージは、さっきお爺さんから貰った杖で、ちょんちょん と地面をつつきました。 すると、カマキリは、素早くどこかへ 行ってしまいました。 「わあ、お兄ちゃん、すごい。」 女の子は、大喜びです。 「これはね、魔法の杖なんだ。」 ボンボヤージは、得意げに言いました。 「お兄ちゃん、魔法使いなの?」 「ううん。僕は魔法使いじゃないんだけどね。」 ボンボヤージは、ちょっと照れくさそうに言いました。 家に帰ると、ボンボヤージは、きょうの出来事を いつもにない早口でお母さんに話しました。 お母さんが、夕飯の用意が出来ないくらい、ボンボヤージは、お母さんの後にくっついて、次から次へと話しました。 次の日、ボンボヤージはお母さんと一緒に、きのうのお爺さんのお家に行くことにしました。 お母さんにも、お爺さんとお爺さんのお庭を見せたかったからです。 きのうのように、アフロディーテの森に入り、奥まで行きました。 でも、あれ? お爺さんの古いお家が、ありません。 薔薇の庭も、どこにもありませんでした。 「お母さん、きのうは、お家があったんだよ。お爺さんも居たんだよ。ほんとうだよ」 すると、お母さんはニコニコしながら 「お爺さんは、ボンボヤージに魔法の杖を託して、旅に出たのかもしれないね。」と言って、モアモアなボンボヤージの髪の毛を 優しく撫でました。 そっか、僕は魔法の杖を預かったのか。 ボンボヤージは、お母さんに言いました。 「ねえ、お母さんの願いを言ってみて。僕が叶えてあげる」 「そうね〜」と、お母さんは少し考えて、「ボンボヤージのお父さんが、早く元気に帰ってきますように」 と、言いました。 ボンボヤージは、よし!と言って、 手に持っていた杖を 振りました。 お母さんとボンボヤージは、お父さんが大好きな海の歌を歌いながら、森を抜け、家に帰りました。 玄関のドアを開けると、 そこには、真っ黒に日焼けして、顔をくしゃくしゃにしながら笑っている、お父さんがいました。 ボンボヤージは、ポケットにしまった杖を そっと撫でました。

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