PYG
その5

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 それから二週間が経った。小百合は三度三度出される豚肉を食べている。そうさ、飢えにはかなわない。過去には人肉を食べた人間はいくらでもいる。彼女もいずれそうなる。今でも間接的に人肉を食べているのと同じだからな。人間は意地汚い生き物だ。食ってセックスして人を殺す、それだけの生き物だ。人間は追い込まれれば何でもする。人を殺すのが嫌だって言って自殺した人間を見たことがない。そういう人間もいるって? それは判断力が混濁していたからだ。意識朦朧として自殺したんだ。倫理的に殺人を犯すのが嫌だからと冷静に自殺した人間を見たことがない。殺さなければ殺すと言われれば人は殺すんだ。それが当然の姿だ。国家機密を守るために自殺するスパイは気狂いだ。殺さなければ逆に不自然だ。私は糾弾しているわけではない。だって人の代わりは大勢いるが、自分の代わりはいないからな。自分が死ねば自分が消えるだけじゃない、宇宙そのものも消えるんだ。宇宙なんて自分が死んだ後、存在する理由も意味もない。自分が存在して、初めて宇宙が存在するんだからな。  加藤は夜、小百合の監禁されている建物に入って行った。小百合の神経は参っていた。彼の姿を見るとおびえた。 「やぁ、元気そうじゃないか。豚肉はうまいだろう」  彼女は恨めしそうな顔で彼を見た。もう目つきが変わっている。尋常じゃない。部屋の片隅にうず高く糞便が溜まって悪臭を発している。 「糞はな、腐敗した状態で出すから臭いんだ。せっかくの豚肉を消化吸収しきれていない。大腸の黴菌のバランスが悪いんだ。乳酸菌の錠剤を飲まなければ栄養を取りきれないまま臭い便を出すことになる。ヨーグルトじゃ駄目なんだ。糞の臭さはあんたの心を表している」 「近寄らないで! あなたは恐ろしい人だわ。八つ裂きにされればいいのよ。あなたは捕まっても裁判にかける必要ないわ。殺された遺族の連中に切り刻まれて肉片になればいいんだわ」 「ふーん、なるほどね、そうさ、裁判なんて必要ない。人の作った法律で私が裁けるはずがない。法律なんて糞のようなもんだ。人間は放っておいたら何をするか分からないから法律を作って、破ったものを罰するんだろう。必要悪だ。他人が作ったものに何故私が縛られなければならない。私は私以外のものに支配されない」  彼は彼女に近づいて、後ずさる女を殴った。何度も何度も殴って彼女は失神した。そして血だらけの顔から滴り落ちる血で真っ赤に染まった首筋にスタンガンを当てた。彼女はびくっと痙攣した。彼はぐたっとした女を引きずり隣の建物に入った。そこには三十頭くらいの豚がぶひぶひと唸っていた。もう五日前から何も食わしていない。飢えた豚がいらいらして共食いを始める寸前だ。彼は女の衣服を脱がして全裸にした。そして包丁で乳房を切り取り始めた。女ははっとして目を見開いた。だがまたスタンガンを当てると女は失神した。彼は切り取った脂肪分たっぷりの乳房を群れの中に放り込んだ。豚は興奮して我先にと群がった。もう片方の乳房を投げ入れた。そこにも豚が密集して暴れだした。そして最後に汚辱にまみれた女性器を切り取って放り込んだ。血の臭いに狂った豚が彼の元に押し寄せてきた。だが豚と彼との間には敷居がある。豚はその壁に頭を打ち付けた。彼はよいしょっと言って女の体を持ち上げ群れに投げ入れた。豚の巨大な体に紛れて女は見えなくなった。  翌日の朝、加藤は食い散らかされ無残な姿になった女の残骸を豚の群れから引きずり出した。向かってくる豚にはスタンガンを浴びせた。豚は悲鳴を上げて逃げた。内臓はあらかた食われていたが、残った肉も多い。骨にこびりついた筋肉や頭蓋骨に囲まれた脳までは食われていない。腐ってはいけないと彼は思った。のこぎりで首を切り離し、背骨をいくつかに分割し、手足の付け根を切り、関節の部分で切断した。そして袋に入れ、別の建物に向かいドアを開けた。そこには大型の粉砕機が仏像のように鎮座していた。機械からは二つの突起物が突き出していた。片方の蓋を開けて袋の中身を放り込んだ。ギャーンという音がして、しばらくすると反対側の突起物からきれいに砕かれた粗い粉末と濁った液体が出てきた。栄養たっぷりの餌が出来上がった。彼は笑った。このごちそうを食べてますます元気な豚に育ってほしいと思った。  彼は探偵を雇い女子アナの現住所、出勤時間、退社時間、出勤経路を調べた。バス出勤だった。マンションから歩いて十五分くらいの五反田駅前のバス停から六本木の放送局へ通っている。夕方の帯番組に出ているから帰宅時間はたいして変わらなかった。夜十時前後三十分だった。彼は富士宮から五反田のホテルに向かった。そして毎日彼女のマンション近くの路上に車を止めて帰りを待った。彼はもちろん偽造免許証で借りたレンタカーを使っていた。顔も偽造していた。人通りは十時を過ぎると目に見えて減ってくる。彼はチャンスを待った。空振りの日もあったが彼女は何回か彼の車の横を通り過ぎた。だがひと気がなくなったわけではない。ある日、彼は九時から十二時近くまで待った。もう諦めてホテルに帰ろうとした時、藤田アナが人通りの途絶えた道を一人で帰ってきた。彼はすっと近づき柔和な顔で道を尋ねた。藤田アナが油断した時、首にスタンガンを当てて気絶させ、バンの後ろ座席に押し込んだ。そして急発進した。その間、二十秒もかからなかった。  養豚場へ向かう道で彼女が目を覚ました。 「降ろして、降ろして、止まって、あなた誰よ。私をどうするつもり、お願い、帰して」  加藤は路肩に車を止めスタンガンを弱にして首に押し当てた。彼女は体の動きが取れなくなった。 「藤田純子さん、まぁ、落ち着きましょう。別に取って食うわけじゃないんだから。あなたは富士宮近くの私の養豚場へ向かうんだよ。夕方のニュースはいつも見ているよ。すごく可愛いと思ってね。毎日、都会の喧騒の中で大変でしょう。上司の監視の中、楽しくもないのに、にこにこ微笑んで、レポートをしている。まだろくにニュースも読ませてもらってない。バラエティも見ているよ。アシスタントで芸人の馬鹿どもの相手をさせられるのも可哀そうだと思ってね。あんな虚飾の世界にあなたを一秒でもいさせたくないんだよ。富士山の麓でいい空気を吸い、ゆっくりと安らいでもらいたいんだ」 「ううぅぅっ、わ~たしを、か~えして~なんの~ために、こ~んなことぉ、す~るの~、ううっ」  彼女はろれつが回らなかった。よだれを垂らしていた。彼はスタンガンを強にして首に押し当てた。彼女は失神した。

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