PYG
その8

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反社会的なサディストよ。社会ではじき出された無能な用なしよ。スタンガンでしか人を自由に出来ない卑怯者の弱虫よ。あなたなんかにこの体が犯されて大切に守ってきたものが奪われて私がどんなに泣いたか分かる?」 「へっ、今流行のサイコパスってやつか。私から言わせれば世の中の人、全員サイコパスだよ。人はね、自我という牢獄に囚われた罪人さ。自己愛の奴隷である人間はとことん自分しか愛せないのさ、汝の隣人を愛せよ、という言葉があるが、それは不可能だから、あえてジーザスが言ったのさ。絶望の気持ちを込めてね。ジーザスは人に無理難題を押し付ける。だから磔になったのさ。ちなみに私のサイトのハンドルネームもジーザスだけどね。生まれ変わりかもしれないよ。西暦2014年に生まれ変わったジーザスさ」 「イエス様を穢さないで! あなたは悪魔よ」 「あなた、私のどこを見て悪魔って言っているの? 誘拐して監禁され犯されたから? そんなもんじゃ悪魔でもなんでもないよ。もっとだよ。悪魔以上さ。あなたはまだ分からないのさ。悪魔の考えることなんてちゃちなことが多い。悪魔の所業って言えるのは人の頭の上に原爆を落としたアメリカ人の行為くらいなもんだな。それは悪魔の名に値する。でもね、それは意外と単純な思考回路からきているんだよ。戦争だからね、何でも許されるんだよ。やられる前にやりかえせ、殺される前に殺せっていうことでしょう。それは原始時代から変わらない人間の本性だよ。それからね、あなた自分の大切なものを奪われたって言ったね。処女膜があるのは豚と人間だけだって言うことは知っているよね。何様のつもり、あなたいずれ誰かと結婚して、毎日やりたいだけやるんでしょう。醜悪な体位でね。みんな獣さ、子供が欲しければ人工授精で作ればいい、なんで二十一世紀にもなってあんな穢れた行為をしなければいけないんだ。ついでに言えば、自分の子供が欲しいっていうのも卑しい考えでね。それだけ自分に惚れているっていうことでしょう。自己愛のなせる技だね、自然はよく出来てるわ」  純子は恨めしい顔で汚いものを見るように加藤を見ていた。自分が哀れに思えて泣いた 「女は何かと言うと泣く。子供と同じだね。自己憐憫は止めなさい。あなたこの世の幸せを独占してきたわけでしょう。少しは人に分けてあげるべきだったね。ボランティアで恵まれない人のために奉仕しましたか? あれも自己満足に過ぎないけどね、会社の面接で、趣味はボランティアですって言う大馬鹿がいるけど、あなたはそうじゃないよね。国境なき医師団ってあるじゃない。戦火や疫病の蔓延する中で我が身を棄てて人に奉仕する人たちこそ偉いんだよ」  純子はうなだれて言った。 「私の父は医者です。大学病院の外科で教授をやっています」 「へぇーっ、医者にもいろいろいるからね、人を切り刻むのが趣向だから医者になったっていうのもいるしね。私は親に捨てられてね。交番の前でギャーギャー泣いていたって。養母は腸の癌を患ってね、さんざ医者に切り刻まれて死んださ。大腸も小腸も全摘されてね。いやぁー、癒着がひどくってねって私に苦笑しながら言い訳したさ。殺されたのさ、医者にもピンからキリまであるからね。医者は殺人を犯しても罰せられない唯一の職業だ。手術ミスをしていない外科医は一人もいないからね。公にならないから騒がれないだけだ。挙句の果ては遺族に感謝されてね、口が裂けても私のミスでしたなんて言わない。暗黙の了解だよ、人殺しの医者はその辺りにごろごろしている。恐ろしい、この私でさえ恐ろしいよ」  純子は何を言っても無駄だと思い、うなだれて一点を見つめている。 「会話が成立しないね、中学もろくに出なかった豚肉屋の親父とエリート街道まっしぐらのキー局のアナウンサーとじゃね。あなたは生きてここを出られない。覚悟しな」  えぇっ、と彼女は頭を上げた。 「私を殺すの? あなた罪の重さ分かっているの? 今でさえ重罪なのに私を殺したらあなたもただじゃいられないのよ。死刑もあり得るのよ。まだ今なら間に合うから私をここから出して!」 「もう間に合わないんだなぁ、もう少し早くあなたに出会えたらこんな私にはなっていなかったかもしれない。幼馴染だったりしたらね。私の家もあなたのように金持ちで大切に育てられたらね」 「あなた世の中のせいにするの。不遇な環境で立派に育った方はいっぱいいます。あなたの本質が分かったわ。復讐ね、全てに対する、捨てた親に対する復讐なのよ。八つ当たりだわ、子供っぽい幼稚なね」 「ふふん、知ったような口を聞くな。まぁ、当たらずと言えども遠からずってとこかもしれんがね」  彼は大型テレビの前で清楚な姿でにこやかに微笑んでいた純子がこんなに汚れにまみれ、汗の臭いと性臭と尿臭と糞臭を放っているのにがっかりした。清楚な美人なんて幻想さ。現実にいるわけがない。虚像だったんだ、改めて彼は確認した。 「今は、さすがに建物の外に出すわけにはいかない。空から来られたらひとたまりもないからな。ヘリコプターが来てあなたに大きく手を振られたら困るんだ。警察はこの養豚場の中までは入って来られない。何の証拠も確証もないなら入って来られないようになっているんだよ、法律は。個人の家の中だからね。私たちに疑いの目が向くことは決してない」    だが警察はひと月近く経ってようやく或る目撃者の情報をつかんだ。九時頃、帰宅するビルの管理人が、帰り道にビルの近くに毎日駐車していた車があることを事件が大騒ぎになってからやっと警察に伝えた。関わり合いになりたくなかったのだ。ナンバーはようやく分かった。レンタカーだということも割れた。藤田純子が失踪した日に犯人はレンタカーを借りていた。その時の書類を警察は得て鑑定した。名前、住所はでたらめだった。指紋、残留物も一切出なかった。免許証のコピーに映っている男、この男こそが事件に関係しているに違いない。それから警察はこの写真入りのポスターを作り大々的に情報を求めた。  加藤はニュースでそれを知り少し嫌な気分になった。むろん偽造した顔だから問題はない。だがNシステムはレンタカーとそこに乗る犯人そのものを捉えていた。静岡方面に向かい富士宮付近で消息が途絶えたとニュースは伝えていた。彼は始末しようと決めた。三日が経った。  加藤は純子のいる建物に入って言った。露天風呂に行く扉は開くよ、体を洗ってきれいにしておいで。彼女はのろのろと立ち上がり扉に手をかけた。開いた。あれほどびくともしなかった扉が開き、再び富士山が眼前に迫った。彼女は服を脱いで風呂に飛び込んだ。汚辱にまみれた自分の体がたまらなく嫌だった。彼女の絶望に凝り固まった心を温かいお湯が溶かしていった。囚われている身じゃなければ、ここはこんなに素晴らしいのに。湯からあがると体中を隅から隅まで洗った。ヘリコプターの音が聞こえた。彼女はガラス越しに大きく手を振った。しかしそれは去っていった。彼女はその夜、ステーキを食べた。するとたまらなく眠くなり意識を失った。  加藤は扉を開き、彼女が眠り込んだのを確認すると担ぎあげ別の建物に通じる頑丈で分厚い扉を開いた。そこには飢えた三十頭の豚がぶひぶひいっていた。彼は彼女の衣服を脱がし全裸にした。美しい体だ。もったいないような気もする。でも飽きない体はない。彼は乳房にメスを入れた。彼女が飛び起き暴れた。彼はスタンガンを強にして首筋に当てた。彼女はぐったりとした。彼は乳房をえぐり半円状の乳頭の付いた脂肪分たっぷりの肉の塊を豚の中に放り込んだ。群れた豚が興奮して肉を引きちぎった。もう一方の乳房も切断し投げ込んだ。それから生殖器をえぐった。どの女も同じものが付いている。清楚な美女も不細工な女もみな同じものが付いていて区別がつかぬ。それは醜怪な形状をしている。ぐっと力を入れて生殖器を切断した。彼は片手でぐるぐる回しながら群れの奥の方に投げ入れた。そこも豚が押し寄せへし合いした。女は死んでいない、気を失っているだけだと彼は確認した。俺は殺人者じゃない。豚が殺すのだ。彼は純子の体を反動をつけて群れの中央近くに放った。  翌日の朝、彼女は無残な姿になって彼の前に現れた。内臓はあらかた食われ骨にこびりついた筋肉と頭蓋骨に囲まれた脳だけが食われずに残っていた。彼はスタンガンで豚を追い払い、残骸を隣り合う建物に移すと再びいくつもの部位にのこぎりで分けた。そして大きな粉砕機のスイッチを入れた。ウィーンと機械が唸り始めた。片方の突起物の蓋を開き純子のなれの果てを入れた。ギャーンという音が響き、しばらくして片方の突起物から粗い粉末と濁った液体が出てきた。一丁上がりだ、これで彼女がいた証拠はない。彼は彼女のいた建物を特殊な薬剤を使ってよく掃除した。血液の反応も出ないはずだ。彼は豚舎に入り粉末を他の餌に混ぜて与え、液体を水のタンクに流し込んだ。  それから二日後の朝、彼のいる社長室の電話が鳴った。 「朝早くからすみません、県警の太田というものです。藤田純子アナウンサーの事件はご存知ですよね。富士宮周辺を捜索しているんですよ。今、養豚場の前にいるんですが、できれば中を拝見させていただけないでしょうか。あくまで捜査協力という形なんですけどもね」 「ああ、どうぞどうぞ、お入りください」  県警の太田と志田は養豚場の頑丈そうな扉が開くと中に入っていった。柔和そうな笑顔をした中年の男性が出迎えた。彼らは養豚場にしては他の所とだいぶ違った造りになっていると思った。周囲を五メートルほどの塀が囲っている。そして五棟の建物が中に建っていた。 「豚舎はどれですか」と太田は聞いた。 「あの中央にある二つの大きな建物ですよ。他の建物は従業員と私たち夫婦が暮らしているものです。ご覧になりますか」 「ぜひお願いしたいんですが」  太田と志田は豚舎を開けてもらい中を見た。百頭近い豚が一心不乱に餌を食べている。従業員が世話をしている。他の豚舎も同様だ。他の建物も中を見せてもらった。特に問題はないように思えた。二人は礼を言い帰ろうとした。 「豚肉弁当はいかがですか。持っていきませんか。すぐご用意できますよ。極上の豚肉です。一口味わったら病みつきになりますよ」  二人は丁重に断り、養豚場から出て車の中に戻った。 「何か、不自然なものに気付かなかったか」  太田は志田に言った。 「建物の一棟が外観に比べ、中が狭かったように感じる」  志田は、そうでしたかねぇ、と言って首を捻った。  二人は別の場所を捜索するために養豚場を後にした。  加藤はモニターで確認すると、 「ああ、もう遅いんだよ。純子は影も形もなくなっちゃったんだから。豚を解体して調べるしかないな。無理な話だけどね。皆さんが口にしても分からないわな。彼女の両親がうちの豚肉を食べても分からないな。そんなもんだよ、現実は」と言った。

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