真夏のコスモス
一 真夏の中のコスモス(15)

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 目が覚めると、朝だった。  ケータイを探して、ベッドから落ちているのを発見し、時間を見るとまだ六時だった。身体が早起きを覚えてしまっている。休みの日ぐらいもっと寝たいのに、とケータイの画面を何気なく開くと、桜乃のメッセージ画面のままだった。  それを見て、思い出す。今日はオフだが、決して休みではなかった。  すぐさま寝直す。いつ叩き起こされるかわからない。それまで少しでも寝てやる。  多分、それから本当にすぐ寝付いて、七時に京子さんが部屋に入り込んできたけれど、一時間も寝た気がしなかった。目を閉じただけみたいな短さに感じる睡眠は、何だかもったいないことをしたような気分になる。 「混むから早めに行くよ。お姉に車借りるし」  つまり僕の母の車で行くようだ。  一通りの準備を済ませて、家を出る。奈央姉はまだ起きてこなかった。暇なら来ればいいのに、と今になって思う。  真夏の朝は暑い。今日も清々しいほどの野球日和だった。  ラジオを甲子園の実況に合わせて、窓全開で助手席からぼんやりと住宅街の朝を眺める。集合場所は、桜乃の家に一番近いコンビニだった。 「桜乃ちゃーん、おはよう」  明るめのデニムに白のティーシャツのシンプルな装いで、桜乃はすでに駐車場の日陰で待っていた。挨拶をしつつ、ぱたぱたと駆け寄ってくる。  おはようございます、と京子さんに挨拶を返し、後部座席に乗り込む。僕と同じくよく日に焼けた顔で、にこりと笑顔を見せた。 「おはよう、アキ」  バックミラー越しにその顔を見て、おはようと返す。思ったよりもぶっきらぼうな響きになってしまった。 「アキの私服久しぶりに見た」 「僕も。最後私服で会ったのいつだ?」 「年始じゃない?」 「あれ、そんなもんか……」  そういえば年始の初詣でたまたま出会ったけど、それ以来だったか。もっと久々なように感じる。  ラジオからは甲子園の今日の対戦カードが伝えられる。もうすぐプレイボールのようだ。  夏の眩しい景色を車窓に流して、快調に車は進む。風景は次第に人混みから離れ、開放的な田んぼが広がったと山が近付いてきた。夏か、と改めて思う。車外は夏の空気が充満しているようで、こんな猛暑の中一日中外にいるんだなとか、やっぱり夏は好きだなとか、改めて思う。  夏は世界が一生懸命色を発しているようで、眩しくて好きだった。単に日差しが強いからなのだろうが、それも含めて夏の要素だ。  あと何分かかるの、と聞くとあと三十分ぐらい、ということなので、到着まで寝ることにした。時折京子さんの笑い声が混じる桜乃との会話を聞きながら目を閉じると、思った以上に早く眠りについていたらしい。  桜乃が肩を叩いて、僕はふわりと水に浮くような感覚で覚醒した。たった三十分ほどだったけど、頭はだいぶすっきりしていた。 「どっちに着いたの」 「ショッピングモール」  だろうと思った。混まないうちに買い物をして、一通り堪能したら昼過ぎぐらいにすぐ近くのコスモス園といったところか。 「じゃあ、とりあえず一時間経ったらこの入り口に集合ね」 「そういう感じ?」 「一緒に回っても退屈でしょ?」  すでに退屈みたいなものだったが、口にはしなかった。スポーツショップとか、本屋で時間を潰そう。別に欲しいものもないし。  京子さんと桜乃は一緒になって歩き出した。大型ショッピングモールだから、一通り回るだけでも相当時間がかかりそうだが、涼しいという点では満点だった。  僕はふらふらと当てもなく歩き出す。何か気になったらその店に入ろう。特に何も考えずに、ただぼんやりと見て回る。  考えなくていい、ということは随分と気楽なことに、途中で気が付いた。ふと明日の練習のことが頭をよぎった時だった。今日帰るまでぐらいは、考えなくてもいいだろうか。身体というよりも、脳のオフとして捉えれば、まだ連れて来られた僕も救われる。  明日のことは夜考える。そう割り切ると、少しだけ心持ちが軽くなったような気がした。

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