真夏のコスモス
二 夢に落ちるその刹那まで(6)

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「今日はちゃんと美味いもん食べさせてあげるから。野球道具は高いからもうダメね」  美味いもんより野球道具のがいい、と言おうとする前に先制された。  ショッピングモールに到着した僕達は、早速二手に分かれる。今回は奈央姉が一人で自由行動、この前買い物は済んでる京子さんと僕が適当にぶらぶらする組み合わせになった。余計に僕の必要性を問う思いが強まる。  まあ、甲子園も終わったから、いよいよ家でやることはないんだけれど。宿題もそんな時間をかけるほど残っていない。来ない理由を訊かれたら、面倒だからとしか答えられない。そしてその回答は京子さんにはだいたい通用しない。 「どう? 野球大変?」  目的地はどこかわからないけれど、涼しく広い室内をのんびり歩き出す。 「そりゃ大変だよ。毎日毎日、暑いし、難しいし」 「難しい?」 「難しいよ。ゴールの見えないマラソンしてるみたい」 「マラソンはゴール見えないよ?」 「でも距離決まってるじゃん」 「秋仁も来年の夏までって期限決まってるじゃん」 「そうだけど、なんかほら、正解がないからさぁ……何やったらいいのかわからないというか、これでいいのかというか」  ふむ、と京子さんはからかわずに嫌に神妙な顔つきで僕の言葉を受け止める。この人はたまに大人の表情をするから、油断ならない。口うるさい厄介なおばさんと思っているだけだと、自分の心をずばり読まれそうで少し怖い。  桜乃は知らない間に僕の心境を慮ってくれたようだけど、京子さんには本心が見透かされてしまいそうで、中途半端なことは言えない。おばさんモードだったら適当にあしらえばいいのだが。 「秋仁の目的は何?」  夏物セールの店をちらりと見ながら、京子さんはあたかも興味なさそうに言う。 「何、急に」 「勝ちたい?」  人の多くなってきた建物内の雑音から浮かび上がるように、京子さんの言葉はやけに鮮明に聞こえる。 「……勝ちたい」 「そのために?」 「……練習する」 「どんな?」  僕は黙り込んだ。京子さんお得意の、一言でぱっと答えるのが難しい質問攻め。 「訊き方を変えよう。秋仁は何ができるかな?」  何が、できるか……。  守山の言葉が蘇る。できることを、ちゃんとやる。できること。それは少し前にも一度、ぐるぐると考えていたような気がする。日々大変だ大変だという思いを言い訳にして、考えるのをやめてしまっていたことに、今更気が付いた。 「まあ、そんなことも考えてみなって話」  京子さんは独り言みたいにそう呟いて、ふらふらと僕から離れて行く。どこへ行くのかと見守ってると、ショッピングモールの一角のカフェに向かっているようだった。 「何してんの? 入るよ」  そうだった、と思い出す。  今日は美味いものを食べさせてくれるんだった。

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