真夏のコスモス
三 一枚の葉で知る(13)

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「練習内容の改善も、ミーティングも、その打開策ってやつのためか」  僕は、目の前の寡黙な男の言葉に素直に頷く。 「そう。練習量は増やせばいいだけだ。帰ってから素振りなんていくらでもできる。だからあとは、その方法を考えないといけない」  守山も一つ頷いた。考えは一致している。 「で、話変わるんけど」 「何だよ、このタイミングで変えるのか?」  その怪訝そうな顔も想定範囲内だ。こんな話ぐらいだったら、すでにいつもやっている。 「方法なんてみんなで話し合うだけだ。ミーティング、毎週続けるから。ここで決められるのはここまで」  僕は椅子に座り直す。教室のざわめきが意識の中に戻ってきた。ここは守山のクラスだった。  僕は一息ついて、極力何でもないことのように訊いてみた。 「守山は、何のために頑張ってる?」 「勝つためだ」  即答だった。じゃあ、と僕は用意していた問いを発する。  いつもチーム全体を見て、僕を気にかけてくれる守山に、訊いてみたかったこと。 「個人的には?」  一瞬目を見開いて、驚いた様子を見せた。そう来たか、とでも言いたげな顔だった。  ただ、守山ははっきりと告げる。驚いていたくせに、まるでその質問を予想していたかのような、事前に準備していたんじゃないかと思うほど確信に満ちた口調で、真っ直ぐに僕を見据える。 「ホームランが打ちたい」  今度は僕が目を見開く番だった。そんな野望があったなんて知らなかった。打撃練習を見ていても、そんな様子は見受けられなかった。 「お前この前初ホームランだったじゃん。どんな感じだった?」 「これが打った瞬間わかるってやつか、って思った」  へー、と興味があるのかないのかわからないような声だった。さっきと全く同じことを訊かれて、僕は勝手に吹き出しそうになっていた。 「他は、何かあるのか?」 「そうだな、あとはまあ、唐崎を完璧にリードしたい」 「完璧って?」 「完璧だよ。パーフェクトゲーム。一回やってみたい」 「おお。いいね」 「完璧に近付こうとすれば、限りなく勝ちが近くなる」  そりゃそうだ、と思ったが、何か別のニュアンスで言っているのだと思った。僕は一息間を空けると、守山はにやりと口角を上げる。  その憎たらしい笑みも、唐崎と似ているな、と思った。 「俺が唐崎を完封させれば、負けることはない」

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