真夏のコスモス
二 夢に落ちるその刹那まで(4)

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「次の試合いつ?」  唐崎が肩をアイシングしながら、河瀬に尋ねる。河瀬は手帳をぱらぱらと開き、凛とした声で周りの部員にも聞こえるような声量で答える。 「次の試合は五日後です」  その後、雨などで順延することもなく、きちっと五日後には試合を迎えられた。相手は準々決勝ぐらいには常連のそこそこ強豪高校だった。  そして、意外とあっさりだな、と思った初勝利と同じぐらいあっさりと、試合に負けてしまった。  こんなものなのか、と思った。  がつんとタイムリーヒットを打たれた時の方が、チャンスで凡退してしまった時の方が、明確にショックだった。負けムードを漂わせないよう必死に声を出したが、他の部員がどう感じていたかまではわからなかった。  重荷は、試合が始まる前に担いで、終わると降ろすような感じだった。何だこれは、と自分の心情のくせによくわからないでいた。 「あんたキャプテンなんでしょ」  負けた日、奈央姉にそれだけ言われた。正直意味がわからなかった。  数日後、夏休み最終日の前日の練習終わりに、村野監督は明日はオフだと突然言った。秋の大会で敗れたからではない。二学期前日、つまり夏休み最終日に急に教員会議が入ったそうだ。  年末まで最後の一日オフだと思えと言われ、まあそうだろうなと思いつつ、皆必死に笑いを堪えた様子でいつもより気持ち大きな声で返事をした。野球部でオフが嬉しくないやつはいない。  ただ僕は、素直に喜びきれない自分がいた。練習も必要だと思っていた。これも主将を務めているからこそ感じられる思いなのだろうか。  驚いたのは、唐突な神の贈り物的なオフだったにも関わらず、その夜帰宅すると、京子さんがいたことだった。  今回はさすがに偶然だろうが、僕のオフに合わせて出現する設定でもあるのだろうか。  もしそうだとすると、明日のオフまで耐えれば次は年末のはずだ。年末年始は毎回母の実家で会うし、どこぞへ連れ回されたりもしない。今回を乗り越えれば、と思ったが、今回の場合は計画的でも何でもないのできっと大人しくしているだろうと思っていた。  朝七時に叩き起こされたり、買い物に付き合わされたりしないはずだ、と思っていた。  ――甘かった。相手が悪かった。  夏休み最終日、ほんの少し残った宿題を片付けるぐらいしか予定はないけれど、京子さんは呆れるほど当たり前のような顔をして、きっかり朝七時に僕の部屋に乱入してきた。 「買い物、行くよ!」  何言ってるんだ、この人は。

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