真夏のコスモス
一 真夏の中のコスモス(12)

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「次で最後です」  同じ班の一年生が時間を計ってくれていて、終わりのタイミングを僕に報告してくれる。  終わったらみんなでボールを集め、カゴいっぱいに入れてマシンの側に置く。そうして次の班のメニューへと移る。一周すると、昼過ぎのいい時間になる寸法だ。 「筋トレって何すんの?」 「トレーニング室行ってから言うから」  唐崎の質問を流し気味に答え、グラウンドの外のトレーニング室へ向かう。内容はいつも通りウエイトトレーニングで、ベンチプレス、スクワット、体幹トレーニングなど基本的なメニューだ。だいたい二十分ぐらいのセットで、終われば次は守備に移る。  守備といっても球拾いではなく、ノックと違い実際の打球が飛んでくる機会なのだから、ぼんやり拾いに行くようではいけない。振り方、タイミングなどを見て、どこに飛ぶのか一歩を踏み出すことが大事だ。外野手の守備は一歩目をどこに出すかでだいたい決まる。  時折高速で黒い影が足元を通過し、慌てて上を向くが見逃していた打球ではなく鳥影というのは外野を守る人間にとってお決まりのパターンだ。やはりよく晴れた日はほぼほぼ引っかかる。今日も引っかかって、たまたま見ていたライトを守る唐崎に笑われた。 「昼飯だ!」 「まだあと一班ある」  唐崎の大声に、今度は近くを通った守山がツッコんでくれる。こういうフォローも地味に助かる。  例によって、やはり気が付いた頃には練習が終わっている。  死ぬほど暑いことと、ほとんどの行動が全力だった以外、ほぼ意識には残っていない。午後は守備練習や実践的な練習を行った記憶はある。当たり前か。とにかく、振り返るのは野球ノートを書く時だから、今はただがむしゃらに取り組めばいいと思っている。  自分の最大限は日々尽くしている。皆に声をかけ、時にアドバイスをし、時に叱責を飛ばす。部員みんなも一生懸命練習している。  しかし、僕の心の中には澱のような思いが漂っていた。それは練習が終わり、帰り道の途中だいたい太陽が沈む頃にふわりと意識下に現れる。  これでいいのだろうか。  その答えはどこかに落ちているわけではない。見上げても降ってこないし、夕立みたいに突然やってきたりもしない。  この毎日を積み重ねれば、僕は最後の夏を悔いなく終えることができるのだろうか。主将を務めて良かったと、本当に心から思えるのだろうか。  不安や恐れにも似た自問が頭の中をぐるぐる回る。  答えは出ない。そんなにすぐ自分の中から出てくるはずはなかった。  それはグラウンドにあるのかもしれない。一生懸命素振りを繰り返すことで見つかるのかもしれない。誰かと手にするものかもしれないし、桜乃との帰り道に落ちているのかもしれない。  まるで旅のようだ、と思った。  この夏は、いや、この一年間は、答えを探す旅になるだろう。  魔王から村を守る若者が勇者として旅に出るように、僕も主将として旅に出たのだ。  チームの勝利を手にするために。  何より僕自身が、より強くなるために。

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