真夏のコスモス
三 一枚の葉で知る(14)

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 結局、個人面談が効果的だったのかどうかは、目に見えてわかるほど何か変わったりはしなかったので、よくわからなかった。  一方で、毎週のミーティングは続けていて、いい意見があれば採用して、守山と河瀬と話し合って監督に掛け合い、その案は練習に取り入れられたりボツになったりした。  部員みんなと短い時間だったが面と向かって話したことも、今はまだ実感は湧かないけれど、何もやらないよりは良かったと感じていた。  こういう継続が、いつの間にか実になれば良いと思った。実になるぐらい続けて、信じて、頑張ればいいと思った。  それまでは、辛抱だ。結果になるまでの、忍耐力が試される時期だ。 「ストライク、バッターアウト!」  僕の背後で審判が声を張り上げた。  空を切ったバットを手に、僕は駆け足でベンチに戻る。 「切り替えていこうぜ!」  切り替えていきましょう、ベンチから飛び出して行った唐崎と同じ言葉を言いながら、一年生が僕にグローブと帽子を持って来てくれた。  僕はそれを受け取り、バットとヘルメットを渡して、明るく返事をしてからポジションへと駆け出す。  そんな、たいしたボールじゃなかったのに……。  涼しくなってきた昼下がりの空気に、僕は声にならない愚痴の混ざった息をを吐き出す。  秋の大会が終わってから、いまいち調子が振るわなかった。  身体のどこかが痛むわけではない。何かスイングに違和感があるわけでもない。ボールが最後まで見えてないわけでもないのだけれど、これがどうして、打球は野手の守備範囲内にしか飛んでいかない。あるいは前に飛ばず三振してしまう。  そんな自分の調子は関係なく、センターからは精一杯声をかけるし、指示も出すし、全力で守る。攻撃の前には円陣の中心でチームに気合を入れるし、いつでも全力疾走を徹底した。  凡退に終わると、唐崎はドンマイと肩をポンと叩いて、守山はじっとこちらを見て特に何も言わなかった。河瀬はスコアブックを記入しながら、近くを通った時に小さく頑張れとだけ言ってくれた。  僕が気を遣われてどうする、と思った。  僕の打席の後に増えるアウトカウントの赤色が恨めしく感じた。振り払わねばならない赤だった。  十二打席ぐらい凡退が続いただろうか。練習試合は秋の大会が終わった九月初旬から何度かあったけれど、自分でも何が何だかよくわからないほど最近は打てていなかった。 「ノーヒット? 珍しいね」  いつかと同じセリフを、桜乃は言った。久々に帰りが一緒になった、十月も終わりの頃だった。 「最近じゃ珍しくもなくなってきたよ……」  僕は俯き加減でぼそりと言う。  ふと、桜乃は僕の前に出て立ち止まった。なんだよ、と思い顔を上げると、桜乃はくるりと振り返って僕と真っ直ぐ対峙する。その顔は、笑ってもいなかったし、心配そうでもなかった。  街灯にぼんやりと照らされた曖昧な表情からは、次の言葉は読めない。その顔は、一体何を考えているのだろう……。 「もう一度」  桜乃は静かに言葉を発する。しんとした秋の夜にぴったりな声だった。 「リフレッシュ、行っとく?」

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