真夏のコスモス
三 一枚の葉で知る(4)

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 その週の金曜、部室前で円形に座り込み、初めての全体ミーティングを行った。次の日が秋の大会敗者復活戦だったこともあり、話はこれまでの二戦の振り返りと、明日以降の試合に向けての認識統一。  語弊を恐れずに言うと、次はまあ勝てる相手だ。  問題はその次、まぎれもない強豪校との対決。ここに焦点を当てたい。翌々週の、土曜日。胸を借りるなんて態度で臨むわけがない。どうやって勝つか、それだけにフォーカスする。  このミーティングに監督はいない。僕達だけで、誰でも何でもいいから発言を受け付ける方式を採択した。が、やはり初めの方は僕がほとんど話す形になっていた。ちょっぴり予想していた展開だった。 「唐崎だから、普通にいけば大量失点はない。だからこそ、一点がすごく重い。じゃんけんに勝ったら先攻を取ろうと思ってるけど、誰か何かある?」  声も手もあがらなかった。消極的というよりは、皆同意の沈黙のようだった。それだけがまだ救いだと思って、僕は話を続ける。 「いち早く点を取りたい。この前負けた試合は、初回の失点が大きかったと思うから……」 「あそこのエースって、球速かったよな?」  篠原が僕だけが話してしまっている状況を変えてくれた。言葉を遮られたが全く気にならず、むしろ少しほっとして、発言権を目で譲る。 「どれぐらいだっけ? 唐崎ぐらい? もうちょい速い?」 「俺の方が速い!」 「嘘つくな。マックスで唐崎のプラス五キロだ。アベレージなら、せいぜい三キロぐらいだけど」  口を挟んだ唐崎を一蹴した守山の補足に、篠原が頷いた。 「バッティングマシン、ちょっと前出して打とうぜ」  我らが四番打者は、力強い目をして言った。必ず打てると確信の入った目だった。  マシンを前に出す。体感速度を上げる意味で、効果的な方法だと思った。 「変化球は?」  今度は北小松が発言した。 「唐崎の落ちるスライダーみたいなあからさまな決め球はない。オーソドックスに速い真っ直ぐと、スライダーとカーブで緩急つけて、あとはコントロールがすげぇ良いらしい」  どこから仕込んでくるのか、守山は有力な情報を惜しげもなく披露する。 「じゃ、唐崎のピッチング練習に立たせてもらってもいい?」  北小松の提案に、唐崎は大きく頷く。 「あ、それは大歓迎。俺も打者立ってる方が本番っぽくていい」  なんだか、ミーティングっぽい感じになってきているように思えた。  僕一人で考えなくても良かったんだ、とこの時ふと気が付いた。  河瀬が一番後ろでメモを取ってくれている。やがて手を止めて上げた涼しげな顔は、雑然と話し始めた皆の言葉を拾ってちゃんと残しておこうと、あちこちを向いている。  練習方法も、そこでの意識も、ここで共有すればいい。一年生からも意見が出ればもっといいな、と僕なりの改善点をノートにメモって、話のキリがいいところで区切りの声を上げた。  変えていくのは大いに結構だが、なおざりにならないよう、一つ一つ大切にしなければならない。  今日のまとめは後で河瀬のメモと突き合わせ、練習の方法の変更は、日曜の朝に伝えることにした。そして明日土曜の試合の目標は、コールド勝ちで全会一致だった。

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