真夏のコスモス
三 一枚の葉で知る(11)

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「そういやさぁ」 「ん?」 「アキ、地味に初ホームランじゃね?」 「うん、まあ、そうだな」 「感想は?」  唐崎は間延びした声で言った。  試合後、結果と先頭打者ホームランを打ったことを報告したら、奈央姉にも同じこと訊かれた。僕は同じように答える。 「これが打った瞬間わかるってやつか、って思った」 「そう! あの感触は癖になるよなー」  唐崎は高校通算二十本近くホームランを打っている。センスの塊は、そう軽い調子で言う。 「二十回も経験したら、やっぱ慣れるものなのかな」  ぽつりと独り言のように小さく言ったが、唐崎はそんなことねぇよ、と答える。 「慣れるもんか。何回打ってもホームランはいいぜ。まあでも、大事なところでタイムリー打った方が嬉しいことだってあるし、なんつーか、そういうもんだよ」  へえ、と思った。そういうもんなのか。  唐崎と一対一で話す機会なんて、思えば今まであまりなかった。こうして面と向かって、守山も居ないところで話すと、ぼんやりと唐崎の野球観が見えてくる。  一番強く思うのは、本当に野球が好きなんだな、ということだった。投げるのも打つのも好きで、走るのは嫌いで、自由奔放に見えるけれど、それは誰にも影響されることなくただ好きなことを楽しんでいるから、と見ることもできる。話してみると、決して単なるバカなやつという訳ではないことを再認識した。  最後になる夏の大会に向けて、投手陣をどう強化していくべきか、また自分自身の強みと弱みなど、明確にイメージして取り組んでいたことには驚いた。  僕はこっそり自分自身に問いかける。  僕の強みは? 弱みは? 自信を持って即答できるだろうか。それを常に考えて練習に取り組んているだろうか。  先に面談を行った北小松は、後輩のことは気にもせず、自分のバンドの確率やヒッティングの精度、絶対的な守備力に力を尽くしていた。唐崎の次は守山だけど、あいつもきっと、同じように何かを常に考えて練習している。まあ、部員のだいたいはそうだろう。本当に何も考えていないのは、いつまでもぱっとしないやつか、何度も同じことを言われ続けているやつだ。  ちなみに僕は、皆の意識をどれだけ勝利に向けるか、というところと、十割バッターになるには、という課題に日々ぶち当たりながら取り組んでいる。  各々の取り組み方も、千差万別だろうと思った。ただ、皆勝ちたいという気持ちは根本にあるから、別に合わせる必要はない。  自分の頑張れる理由で頑張ればいい、と思っている。  唐崎は、そんな僕の内心を知ってか知らずか、さらに話を続ける。 「みんな課題って別々だからさ、お互いそれに向けて頑張ればいいんだよな。それは最終的に、きっと勝ちに繋がる」 「そう、なのかな」 「お前はキャプテンだからさ、違うポジションも学年も全部見て、総合的にまとめて考えるんだろうけど、結局俺ら個々人はどうやったら三振取れるかとか、ホームラン打てるかとか、控えのやつだったらスタメンに入れるかとか、そういう問題の方が無意識のうちに大きいものになってるわけ」  唐崎はセンスの塊だけれど、センスだけで野球をやってるわけじゃないんだ、ということに気が付いた。それは至極当たり前なはずなのに、なぜか改めてそう思った。

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