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 キートはラザールの部屋へと続くコネクティングドアを開けた。  古めかしい、アメリカンヴィンテージのインテリアで統一された部屋は当世風ではないが、センス良く 温かみがある。だが、整然としすぎていて、部屋の主が不在だということを差し引いても、あまりにも 生活感がない。  木目が美しい、重厚感のある両袖デスクの上はきちんと片付けられている。エイジング感の強い、 どっしりとしたダークトーンのレザーソファーに、ベッドは少し太めの、シンプルな黒のアイアンフレームだ。 壁に飾られた抽象画は、ジェイクの作品だろうか……  キートはベッドに腰を下ろすと、ポケットから白い錠剤を取り出して、水なしのまま飲み込んだ。そのまま 枕に顔を埋めると、ラザールにされた淫らな行為の数々を思い出し、身体が疼いた。  寝返りを打つ。  身体に擦れるシーツの感触に、肌が泡立つ―――    ラザールの、充分すぎる広いベッドで、踊るように身をくねらす。  キートはラザールが欲しくてたまらなかった。性的に興奮していた。薬のせいか、欲求不満のせいかは わからない。身体が熱い。開発途中で、中途半端に放って置かれているせいだ、とキートは唇を噛みしめる。 今ここにラザールがいてくれたら……と思う。  触ってほしい。鎖骨に歯を立てて、首筋を咬んでほしい。髪を撫でて、唇に吐息を吹きかけてほしい……  キートは服の裾から手を入れて、自分で自分を慰める。  甘美な感覚の波が内臓から皮膚の表面へ、全身へとさざ波のように広がる。自分で乳首を弄ると、すぐに 芯が熱く、硬くなった。ジンジンとした痺れを感じ、親指と人差し指を使ってこすり合わせると、電流を 流されたようなショックに身体が仰け反った。閉じた瞼の奥で、何かが白い閃光を放ち、総身がビクビクッと 痙攣した。  気だるく、まるで雲間を浮遊しているような感覚の中、股間を見ると、そこはしっとりと濡れていた。  キートの股間は、萎えた陰嚢と、排尿の為の小さな穴だけがある状態だ。ペニスが切断されているので、 勢いよく発射というわけにはいかないが、どうやらイクと精子だけが表面にじわじわと染み出してくる らしい。それを見て、キートは幸せな気分に浸った。初めてのことだ。どうやら自分にも、快楽中枢らしき ものが存在するらしい。  キートは笑い声をたてた。自分の声の響きがくすぐったくて、さらに笑う。身体の揺れに合わせて、 ベッドのフレームが鳴る。まるで音楽のようだ。スプリングが弾み、身体が跳ねる。何だか楽しくて、 気分が高揚してきた。 「キート? そこにいるのか?」  ベッドの上で見悶えていると、今度は幻聴が聞こえてきた。ラザールの声だ。

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