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 藤田さんはどうも、無口なひとではないらしい。  何だか、想像よりずっとよく喋りよく笑う感じというか。ぱっと見でいだくイメージとだいぶ違う。  これはチャンスとばかりに――そして、何か話題を広げなくちゃ、と私は口を開いた。 「あの……。藤田さん、なんで "フジサン" て呼ばれてるんですか?」  しかし私は一体、何本目のパンの耳を口に運んでいるだろうか。でも確かに……意外と美味しい。 「あー。それ? んーと、最初は普通に "藤田さん" だったはず。でも気が付いたら "フジサン" になってたんです。誰がつけたんだか。俺を表してるとも思えんし」 「……縦にも横にも……大きくないですもんね」 「まあ、デカくはないよね」 「あぁっ……いえ……そういう意味では……。通常の……あの……平均の大きさっていうか」 「なに、通常の平均の大きさって……」  焦った私が言ったよく分からない発言に、藤田さんは笑った。彼はよく喋るけど、やっぱり物静かな声だから、何だか焦る。 「あれかなー。 "フジサン" は、俺の出身地のせいかもしれない。俺、静岡出身なんですよ。富士山のふもとの、冬はすっげー寒いとこ。まあ、そんなわけで、"フジサン" の真相は分からぬまま。……面白いからいいけどね」  そう言った藤田さんが、お茶を飲みながら、こっちをちらっと見る。  ヤバい、寝癖とかあるかもしれない。一応、気を付けてるけど、今日はあんまり鏡をちゃんと見てないというか。 「あのっ! 私、失礼します!」  少し時間には早かったけど、私は立ち上がって、ぺこりと頭を下げる。  そして、彼に答える隙を与えずに、そそくさと休憩室を出た。

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