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(こりゃすげーなあ……)  口に出すと耳ざとい風一族に感づかれる。  ましてやここは彼らの拠点、三人もいる。  姉妹の方は、気づいているのかいないのか。  仕組んだであろう風香本人は素知らぬ顔で風鳴と対峙している。  当然といえば当然か、そうでなくては偉い人は務まらない。 (床下、屋根裏、庭先の茂みまで下忍共が控えてやがる……どんだけ風鳴殺したいんだか)  円族は一人、嘆息する。  誰にも気づかれないように。 (わざと気付かせてアタシに釘刺してんのか、それとも気づいたアタシが天才的すぎるのか……)  にひひー、とつい笑みが漏れてしまうも、じと、とした視線に気づいて、真面目な表情を形作って、咳払い一つ。  偉い人に目を付けられてはたまったものではない。今は、まだ。  ややあって、風香が再び風鳴に視線を戻す。  再び白と紅がぶつかり合う。  木材の軋む音は、果たしてただの家鳴りだったのだろうか。 「……風鳴は、誰とも戦わない」  「ならば証を立てる事ね。生きるというのはそれの繰り返しよ。あなたがこれからも生きたいと願うなら、まずは血の呪いを征する証をお見せなさい……あなたはこの北の大地に何を成す為に来たの?」 「それは……」 “私から説明しよう”  ざらついた声は、空から。  風歌と、風鳴、風香が一斉に庭先を見る。  環が弾かれたように片膝を立てる。いつでも飛び出せる態勢に、自然と体が動いていた。  岳磨も慌てず騒がず、ギロリと視線だけ庭に向ける。  緑萌ゆる庭に降る、黒い塊。  遥かなる青空から、外套をたなびかせて、降り立つさまは静寂そのもの。  足音が立ったのかと錯覚させるほど。  異様に高い背丈、髑髏を模した黒仮面が見え隠れするその様は、黒い死神。  庭が、屋敷が僅かにざわめく。  瞬きする間もあればこそ。  忍が四人、屋敷の、庭の影から飛び出し、死神を取り囲む。  刃を突き付けられても、抵抗するそぶりは見せない。  お互い、体勢を崩さず静かに睨み合う。  一同が展開を注視する中、岳磨ただ一人がギラリと、歯を見せて笑う。 「今日は千客万来、ってところか」  言葉を受けてか、偶然か、同時に風香は庭先に向け跳躍していた。  宙に白い閃光が走って初めて、一同は族長代理が跳んだのだと気が付いた。  座ったままの姿勢を崩すことなく、着物の乱れ一つない、粉雪の如く静かな身のこなしで、黒い威容の前に降り立つ。  すっくと立ち、背丈の差など無いかのように、暗い仮面を正面から目で射貫く。 「……名をお聞かせ願えます?」  しんしんと静かな、確固たる問い。  黒髑髏が、カタカタと振動する。 「お初にお目にかかります。私は開明(カイメイ)。風鳴の主治医です」

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