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 ぴたりと。  環の動きが止まった。 「……“呪い”ね」  早朝の穏やかな空気に、見えない線が張り詰める。 「さっきの跳躍……あれも?」 「わからない……すごく熱くて、嫌な感じだったから逃げた。熱した鉄のトゲを体中に刺されてるような……」 「……そう」  紙風船を割ったような、軽快な音が重なった。  風鳴が目を丸くしている。  環が、自分の頬を両手で張ったのだ。 「落ち込まないの! センセがパパッと治してくれるからさ!」  狐につままれていた風鳴の顔が、笑顔になった。  小さく噴き出している。 「なんで環がそれ言うんだよ……」 「細かい事は気にすんな……って今名前!? 名前で呼んだアタシの事!?」  風鳴はそっぽ向いてしまう。  環が回り込む。 「……さあね」 「いや言った! 絶対に言った!」  風鳴はさらにそっぽ向いてしまう。  また環が回り込む。  そっぽ。  回り込む。  そっぽ。  回り込む。 「何をしてるんだ」 「うわ出た!?」 「人を化物みたいに言うな」  いつの間に現れたのか。  ごくごく自然な感じで、風歌が二人の元へ来ていた。 「だってェー、いつも忍び寄ってくるじゃん。それ止めなさいよねー」 「周囲を回りながら風鳴の隙を伺う……訓練か」 「聞いてた人の話!?」  二人のやり取りを、風鳴が物珍しそうに眺めている。 「ところで何の用よ」 「先生から伝言を預かってきた。今晩には完成するが、“手段”がうまくいく保証はない。だから、せめて夜まで自由にしていてくれ、ただし行き過ぎた行動は控える様に、それと必ず戻ってくるように、という事だ」 「マジ!?」 「……先生が……?!」  環の表情が、陽光よりも明るくなった。  風鳴も、まじまじと風歌を見つめている。  姉もまた、小さく頷く。 “血の呪い”を解く手段。  探し求めてきたそれが、にわかに現実味を帯びてきた。 「なら、風鳴はここで大人しくしてようかな」 「いやいや、前祝いとして港町に繰り出しましょうよ! パーッと! 飲もう! 三人で!」 「……羽目を外し過ぎるなよ」  「いいよ、二人で楽しんできて」 「しかし風鳴、顔色が悪い。私も付き添うから一緒に……」  風歌の手が風鳴の頬に伸びる。  大きな手、その爪先が妹の仄白い肌に触れようかというところで、その身体がびくりと震え、思わず半歩、後ずさった。 「……ごめん」 「いや……私こそすまない」  ほんの半歩。  姉と妹の距離。  踏み出せば抱き合う事すらできるのに、今は千里の荒野より遠く感じられる。  お互い、樹木が根を張ったかのように、とどまっている。  その二人の肩ががしっと掴まれた。  姉妹に割って入るのは、赤毛の赫灼たる役者。 「行くったら行くわよ! 動いてみればくさった気分も全部吹っ飛ぶんだから!」

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