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「これから生成に入るので、しばらく部屋に籠る。誰も入れないでくれ」 「オッケーセンセ。北の連中が来たらぶちのめして吊るしてやるから安心してよ」 「断っておくが、生成過程を絶対に見てはならない。万が一知られようものなら、“呪い”は“呪い”ではなくなる」 「なんで? それっていい事じゃないの?」 「“兵器”になるという事だ。如何なる脅威も御する手段があれば、それを戦争に用いる輩が必ず現れる。世界を混沌の渦へ落としたくはない」 「ふーん……。…………。まあ了解。安心して作っちゃってよ」  環の安請け合いを背に受けて、開明は部屋に入り扉を閉めた。  色褪せた扉が軋みを上げて、外界を遮断する様を三人は見守る。  ここまで来れば、できる事は、待つだけ。  港町から少し離れた山の中腹にあるさびれた教会の、礼拝堂。  所々仕上の剥げた内装も、大小傷だらけの長椅子も、長い年月の経過を感じさせる。 戦争か、破壊か、いずれかの名残なのだろう、大穴の開いた屋根からは月と星の贈り物と思しき光が差し込んでいる。  微かな光の中、環は長椅子にドカッと腰掛ける。  風歌は、近くの壁によりかかったまま、腕を組んでいる。  風鳴はといえば、二人の近くとも遠くともいえない、つかず離れずの位置で、月光を浴びている。  白い肌が透き通って見えるのは、錯覚だろうか。  全身の血脈が、一層毒々しい赤に浮かび上がっている。 「風鳴、こんなものが世界中にあるのか」  姉の問いかけは、夜風ともいえぬ息吹。  風鳴が頷く。 「……十年かけて、二人で作った」  返事に力はない。  その赤と琥珀の瞳で、二人を流れる様に瞥すると、手近な椅子を選んで、よこたわってしまった。  話す気はないのか、顔を背けている。  風歌と環は、風鳴が微かな寝息を立て始めるまで、神妙な面持ちでその背中を見つめていた。 「お疲れね……まあ、花探しホントしんどかったし。終わったら終わったでクマさん北の屋敷にとんで帰っちゃうし」  地味過ぎー、と誰にでもなく喋っている。 「環」 「ん?」 「…………私達がアンタの同行を認めたのは、近くの方が見張っていられて都合がよかったからだ。それ以上でもそれ以下でもない」 「そりゃどーも」 「……アンタ、何を企んでる?」  風歌が環を見据える。  問いかけに、冷たく、硬いものが混じっている。  環も胡乱げに風歌を見た。  切れ長の目、右瞼から頬にかけて残る傷跡。  戦の匂いを嗅ぎ取り、環の背は知らずのうち、ほんの僅か伸びていた。  小さく、息を吐く。 「…………助けてほしいの」 「何故」  赤い髪が揺れ、その視線が月と星明りへと注がれる。 「欲しいものがあってさ。それがあれば、母さんを助けられるかもしれない」 「母親か……そういえば」 「アタシ一人じゃ無理だからさ、助けてくれそうな人を探してたんだ。そこにアンタたちが現れた。あんなでっかい奴を相手に躊躇いなく突っ込んでいって、皆を助けた。いい人だって思ったのよ。それに強くて度胸もあるし、こりゃあ逃すわけにはいかないなって」

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