軍師の嫁取り
戦の前には誤算あり12

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思えば、この男、農夫をしているが、諸葛亮の弟。実は、こちらも、侮れない相手なのだと、劉備は気がつく。 「……先生は、お留守とのこと、よく、わかりました。今日のところは……」 兄じゃ!と、義兄弟は、不満をつのらしている。 しかし、目の前で繰り広げられている作業は、単に、火を放てば良いというものではなく、皆で、風向きの変化など、瞬時に、相談、判断をして、適切な方向へ、火を導くように、草を刈ったりと、気抜けない作業だった。 ……これが、民の暮らしなのか。 劉備は、愕然とした。 そして、その場を離れたのだった。 「あれ、なんだか、急用ができたようで、帰ってしまいましたよ」 「あー、別にかまわんよ、どうせ、あんな格好。役に立つとは思ってなかったし」 背後から聞こえてくる、自分達の評価に、劉備は、更に愕然とする。 自分は、何をしているのだろう。 先生に、会えば、それで事が収まると、なぜ、そのような、安直な考えでいたのだろう。 これでは、何時までたっても、諸葛亮という人物には、会えないだろう。まずは、自身の心を入れかえなければ。 均、含め、皆、楽し気に作業にいそしんでいるが、決して、気はぬいていない。 それに比べて──。 兄じゃ!と、文句しか言えない従者達が、劉備には、疎ましく思えた。 「あー、やっぱり、我が家が、一番!」 言って、月英は、ゴロリと、孔明の横に転がった。 「あら?旦那様どうされました?」 湯に浸かり、いわゆる、女に磨きをかけた、月英は、いつも以上に、妖艶だった。 もちろん、病人であろうとも、孔明は、その姿に当てられ、頬を染めている。 「あら、まだ、お熱が下がらないみたいですわねー」 「え、え、そのようで……多分……」 と、口ごもる、夫に、月英は、あぁと、言って、申し訳なさそうな顔をした。 「うっかり、我が家、なんて、言ってしまいましたわ。私ったら……」 しょげかえって、しまった、妻に、孔明は、慌てた。 「いやいや!!黄夫人!確かに、ここは、あなたの家ですからっ!!何も、謝ることなどないのですっ!!」 「じゃあ!もう少し、居てもよろしいかしら?」 嬉しげな、月英に、孔明は、思う。 そういえば、里に帰ることもなく、あんな辺鄙な場所に、閉じ込めていた。自分は、師の元へ通う事ができ、好きなだけ論じているのに……。 「ええ、もちろんですよ。私も、先生の所へ、通い安くなりますからね。それに、均も、たまには、一人になりたいでしょうし」 「そうですね、均様ったら、いつも、気を使われて……」 奥様ー!と、童子の声がする。 「お食事ですよー」 「あらまあ、そんな時間なの」 「あー!旦那様は、まだ、葛湯です!」 ですって、と、月英は、孔明へ微笑んだ。 やはり、たまには、里帰りも必要だな。と、孔明は、穏やかな妻の笑顔に、またまた、当てられるのだった。

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