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24時50分39秒をお知らせします。 桜のいろはにほへとちりぬるを。 そんな季節の金曜の夜。 あぁ、どうして私は今も尚デスクに張り付いて仕事をしているのでしょう。 そんな問題を出したところで、その答えは明瞭にして明白にして明快であり明確。 私の作ったデザインが全てボツとなったから。 「これで行きましょう!」って威勢良く言ったクライアントの営業さんから、今日の17時に連絡があったから。 「申し訳ないのですが、やはりもう少し再考をお願いしたく」 「やはり」ってなんだろう。 やはり。予測したとおりになるさま。案の定。やっぱり。 誰か予想した展開だったのでしょうか。 人生というのは、この真っ暗なオフィスのように漆黒に閉ざされているのかもしれません。 本来ならば、今頃は……と私は苦虫を咬み潰したような顔付きをしながら、この闇の中で、唯一の光を放つパソコンと向き合っている。 「あの人に贈る。丁寧なありがとう」 そんなキャッチコピーに見合うデザインとはなんだろう。 しかし、今日は私にとって本当に大事な日だった。 恋人……となれたら良いなと思っていた人との初めてのデート。 のはずだったんだ。 こんなことが起きなければ。 まさに大切な日にドタキャンをかましてしまった。 その人からの返信は「そう。残念だけど、がんばってね」だけ。 次の約束はないのか。もはや取り付ける気すらないのか。そうなのか。 あぁ、なんて可哀想な私。 自分一人が悲劇の中にいるかのような、自分の仕事が何よりも辛いと思うような、そんな人にはなりたくはないけれど、少しくらいは酔わせてほしい。 現時点で、このオフィスビルの9階において、最も哀れな私。 そう、今このビルの9階には私しかいない。 だから、それくらいは思っても罰は当たらないはず。 なんたって、事実なのだから。 それにしても私はいつだって間が悪い。 万難を廃して臨んでいるはずのイベントは、だいたい何かしらの理由で遅刻する。私が遅刻をしなくても、延期になる。延期にはならなくても、イベント中にハプニングが起こる。決まってるんだ、そういう星の元に生まれたんだ。諦めるしかないんだ。 間の悪さ選手権なるものが開催されるとすれば、関東大会の決勝トーナメントシード権くらいは有している存在だと思いますよ、私は。 そんな時に、私のスマホが怪獣と戦う正義のヒーローのように光り、揺れ出すのが視界の端に見えた。 私に似てなんと間の悪いスマホなんだ。 せっかくの集中が台無しじゃないか。 と集中の「S」の字も有していなかった私はおもむろに画面に目をやる。 「お疲れ様。きっとまだ仕事だよね。明日か明後日の午後空いてるかな。もし良かったら、今日の代わりにここに行きませんか」 併記されていたURLには、やたらと季節を先取りしたような名称のビールイベント。 24時53分28秒。 たったの三分で人生は黄金色だと思えるくらいには、私は元気です。

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