短編集「ショート/オブ/ショート」
小さな庭のプールを見ながら

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小さい家だが、買って良かったと思う。 猫の額どころかネズミの額程の庭ではあるが、庭付き一戸建てだ。 そのこじんまりした庭に置いた家庭用のビニールプールで遊ぶ子どもたち。 キャッキャッと笑う声がする。 夏なので、冷たい水もすぐに温くなる。 私も子どもであればそのプールに入れてもらうところだろうが、いかんせん大人にはさすがに狭い。 私は縁側に座りそんな様子を観ながら、ビールの喉越しを味わう。 「美味しそうですね」なんて奥さんが声を掛けて来る。 「昼間っから飲むビールは最高」と私はビール缶を高々と上げ、真夏の陽射しに目を細める。 「いいなぁ」と頭の上から声がする。奥さんはお酒が飲めない体質なのだ。 「パパー」と庭から声がする。 そんな可愛らしい声を肴に、私はビールをグビッとやる。 可愛らしい声がした少し後に、旦那さんが「なんだい」と庭の子供たちに声をかける。そうして、旦那さんは縁側から庭に出て行った。 「ふふふ。おかげさまで私たち一家も平和に楽しく暮らせています。ありがとうございます」と奥さんが私に言う。 「いえいえ。私は独り身ですからね。部屋数が多くて勿体無いなとは思ってたんですよ。ただ、どうしても田舎で余生を暮らしたくなりましてね」 「えぇ、わかりますとも。私たちも都会から離れて暮らしたいと思って引越した矢先に、強盗殺人で一家惨殺ですからね。子供たちはプール中で……」 「それは未練があっても仕方ないですよね……御愁傷様です」 「そうですね……」と奥さんは青白い顔をさらに暗くする。「でも、今はおかげさまで楽しい暮らしができてます」 「最初、幽霊として化けて出られたのはビックリでしたよ。あんなに怖い経験はもう二度としたくないもんです」 「えへへ。その節は失礼をいたしました。まさかこんなにも私たちに親切にしていただける人間の方がいらっしゃるとは思わなかったもので」 「いやいや。ご家族の無念を思いますと、それも致し方ないことかと」 「それにしてもせっかくのんびりされようとしていらっしゃったのに、ご迷惑ではないですか。こんなに煩くしてしまって」 そう言いながら、奥さんは庭にいる旦那さんとお子様二人の様子を優しい顔で見守る。 「いえいえ、おかげで長年独り身の私にも家族ができた気分を味わえますよ。賑やかで楽しい家なので、気に入っています」 庭付き一戸建て。 幽霊一家付き。

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