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今日も人を斬った。 いつの間にかそれが仕事になっていた。 用心棒。いつしかそう呼ばれるようになっていた。 俺が来ると、周りから笑い声が消える。 いつものことなので傷付くことはないが、いつものことだからと言って慣れることは、ない。 俺はいつからか恐れられていた。 俺の名前を聞くと背筋が凍る思いをすると同業者に言われたことがある。 その際に、俺の何がそんなに恐ろしいのかと問うた。 人を斬ることに躊躇いがないところだと返答があった。 そうかと俺は答えたが、躊躇いが無かったことなど未だかつて一度もない。 斬ることは恐怖だ。対峙する人間の尊厳を奪うことを良しとする人間などがいれば、そいつは鬼か妖の類だろう。残念ながら、俺は人間だ。 ある日、いつものように俺は人を斬った。相変わらず急な仕事の依頼だった。 街は真夜中。誰もが寝静まったかのように音一つなく、深々と黒衣を纏っていた。 仕事終わり、俺はいつものように近くの河原で寝転がりながら、夜空を見上げていた。こうして夜空を眺めていると、俺という存在が闇に溶けて混じり合うような奇妙な感覚に陥る。 そこで俺は子供がシクシクと泣いている声を聞いた。 まさかこんな夜更けに幼子がいるはずがない。それこそ妖の類かと耳を疑った。 さすがの俺も鬼や妖といった物の怪とは対峙したくはない。確かに、今は草木も眠る丑三つ時というやつだ。これは厄介なことになったと俺はそう思った。 しかし、よくよく周囲に目を凝らしてみれば、俺がいるすぐ近くの河原を子供たちが歩いている姿がぼんやりと見える。 そして、その子供の隣には大柄な男が二人いることに気が付いた。その大柄な男の一人がどうやら幼子の手に轡代りと思える紐を繋いでいるようだった。 なるほど、これはどうやらここ最近流行りの拐かしに違いないと俺は勘付いた。 だが、残念ながら俺の知ったことではないという気持ちがあった。何よりも物の怪の類ではないということがわかり、俺は興味を失っていた。 そのまま放っておこうと思った矢先に、子供が再び泣き始めた。 瞬間、男が折檻を加え、子供は泣き止んだ。泣き止んだというよりも恐怖で涙さえも慄いてしまったという具合だったように思われる。 俺は先程一仕事終えて、神経が昂っていたこともあったのだろう。その姿がどうしても許すことができなかった。 男が幼子に乱暴を振るったことに対してではない。その子供のあまりの弱さに無性に腹が立ったのだ。仮にも男児たるもの、自身の生き死にを堵して闘わずしてどうするのだと、俺はその子供に対して無理難題を覚えたのだ。 男二人のうち紐を持たない方の大男は、泣くのを止めた幼子の背中を軽く蹴り、先を急がせた。 俺は、静かにその男の横に着けた。ちょうど河原の斜め下の部分に俺はおり、この暗闇のせいで男からは気付かれてはいなかった。そして、まず俺は紐を持たない方の男の脚の腱を断った。脆くも崩れる大男は声を上げて痛がり始めた。 轡を持つ男は突然の悲鳴に狼狽する。何があったと倒れた男を覗き込む。その瞬間に男は俺と目が合う。だが、その目に向かって、俺は切っ先を向け、そのまま突いた。男は痛さでのたうち回る。 そうして、動けない男と見えない男が出来上がった。出来上がったのも束の間、その次は喉に風穴を開けられた死体が出来上がった。 そんな俺の姿を震えながら幼子が見ていた。 「あなたは誰なのか」と助けてもらった礼も言わずに俺の素性を聞いて来やがった。 医者だと俺は正直に告げた。 人を斬って治すのが俺の仕事だ。 治すことのできない屑を屠るのは初めてだった。 「鬼だ」と幼子は震えた。 毎日のように人助けをしてやっているのに、どうしても俺は恐れられる。

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