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……ハァハァハァ……今日もあの夢だ。 ここ数日、おそらく一週間近くずっと同じ悪夢を見ている。 自分たちが乗る飛行機が墜落する夢だ。 毎晩毎晩うなされて、起きた時には冷や汗でぐっしょりだ。 さすがにここまで連日連夜見るということは、何かあるのではないか。いわゆる予知夢というやつなのではないか。死んだばあちゃんが何かを告げているのではないか。 そう思い、さすがに妻に夢の話をする。 妻はあっけらかんと笑って言ってのける。 「私なんてハワイでトロピカルドリンクを飲む夢を毎日観てるよ。大丈夫大丈夫」 僕ら夫婦は、結婚二年目の記念ということで今晩からハワイへ旅行の予定だ。七泊九日というなんとも贅沢な日程だ。 妻の友人の経営する高級コンドミニアムに破格の値段で泊まれることになっている。 そこまで稼ぎがある訳ではない私たち夫婦もこんなチャンスは滅多にないぞと、清水の舞台から飛び降りたつもりでの海外旅行という訳だ。 しかし、やはりこうも連日連夜、飛行機が落ちる夢を見るというのはどうにも気分が悪い。 「逆夢よ、逆夢。悪い夢は逆に良い兆候だとかなんだとか言うじゃない」 「正夢ということもありうるからなぁ……」 「何よ、行きたくないの。それなら一人で行っちゃうもんねー」などと妻が戯ける。ここで湿っぽくなったり怒ったりせずに、明るく笑えることは妻の魅力の一つだ。 「ごめんごめん。一緒に行かせてください」 「うーん。どうしよっかなー」 そんな朝を過ごし、僕らはひとまず仕事に行く。 いよいよ今晩の便で出発ということで、仕事は午後からお休みをいただいている。 妻とは夕方に羽田空港で待ち合わせだ。 「やーやー。ビビリな旦那様。このままフライトして大丈夫なのかね」 妻は会って早々なかなかのご挨拶をかましてくる。 僕らは、機内では軽食しか食べられないらしいという噂を仕入れたので、羽田空港内で夕食を取ることにする。せっかくなので、少々お高いものを食べようじゃないかと物色中だ。 「でもさ、実際に予知夢だったとして、君が私を一人で行かせるような人ではなくて良かったよ、うん」 妻は突然にそんな話をしてきた。 「だってさ、仮に君一人を残して私だけ死んじゃうなんて、寂しいじゃん」 「……ハワイ、思いっきり楽しもうな」僕はそう言って、愛しい妻の手を握る。 そして、いよいよ搭乗となる。 不安が無いと言えば嘘になる。 それでも、さっき妻が言っていたように、妻と一緒ならば悔いはないなと僕もそう思った。 「僕もさ、君と一緒なら正夢だったとしても怖くないよ」 「……ばーか。ねぇ、機内食は軽食って言ってたけど、本当はすごーく豪華な夕飯が出たらどうしよう。私、食べ切れるかな。タッパー持ってくれば良かったよ」 妻はそんなくだらない心配をする。 しかし、そんな妻の心配を余所に、噂通り出てきたのはサンドイッチのみだった。 そして、消灯の時間となる。時間は深夜一時を少し回ったところ。 おやすみと僕らは互いに声をかけ、眠ることとする。 私が寝たかどうかというようなタイミングで、突然の警報が鳴り響く。 次いで飛行機のエンジンに異常が発生したというアナウンスが流れる。 毎晩見る夢の通りだった。 そうか、やはりあれは予知夢だったのだ。正夢になってしまった。なんてこった。 妻は、大きな瞳に涙を溜めて、唾を飲み込む。 ごめんねと細い声が聞こえた気がした。 君のせいなんかじゃないのに。何を言ってるんだよと僕は笑う。 そんなことよりさ、僕と一緒になってくれてありがとう。 妻は周囲など関係なしに大きな声を出して泣いた。 あぁ、楽しみにしていたハワイ旅行だったんだけどな。 僕はそうして、目を閉じる。 ……ハァハァハァ……今日もこの夢だ。 ここ数日、おそらく一週間近くずっと同じ悪夢を見ている。 自分たちが乗る飛行機が墜落する夢だ。 毎晩毎晩うなされて、起きた時には冷や汗でぐっしょりだ。 今晩からハワイへ旅行の予定だというのに。

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