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君を待つ 僕の姿はいつの間に 父と重なる苦笑いをも ふと七五調を読んでしまうくらいに、僕は面白くなってしまった。 そういえば、僕が幼い頃、父はいつだって僕らからは少しだけ距離を取り、僕と母の買い物が終わるのを待っていたっけ。 遊園地でキャラクターグッズを買うとき、デパートで服を選んでいるとき、行楽地でお土産を物色しているとき、スーパーでお菓子を探しているとき。 父は決まって、少しだけ離れたところで僕らを見ていた。少し壁に寄りかかり、右足だけ爪先立つかのように、左足を軸にして、父は待っていた。 買い物の時間がいくら長かったとしても、父が不満を述べたことはなかった。 「もう良いのか」と決まって口にしてくれた。 我が家は決して貧乏という訳ではなかったが、だからと言って特別裕福という訳ではなかったことくらい、義務教育が始まった数年目には理解していた。 それでも父はいつだって文句を言うことなく、僕らをいろいろなところに連れて行ってくれた。買い物にも着いて来てくれた。 しかし、父が自分のものを買うということは滅多になかった。 たまにレジに並んでいるなと思い、何を買ったのかと尋ねると、僕が物欲しそうにしていたから買ってみたんだと言いながら、僕が欲しかった玩具などを手渡してくれる。そんな時、だいたいにおいて父は母に叱られては、「わかった、わかった」と言っている。 幼い頃の僕は不思議でならなかった。 どうして父はこうも僕らに物を買い与えてくれるのだろうかと。自分の物は何も買わないのに。自分の物は後回しにしてまで。 しかし、今の僕にはそれがどうしてかわかる。 今日、僕は少し壁に寄りかかり、右足だけ爪先立つかのように左足を軸にして、妻と息子のことを少し遠い離れたところで待っていた。 あの頃の父の姿と瓜二つだなと、僕は「ふ」と顔が綻ぶ。そんな姿もあの頃の父の姿と瓜二つだった。 少なくとも僕にとっては、そう思える。仕草というものは思わぬところで似てくるものらしい。 妻と息子は買い物を終え、こちらに向かってくるところだった。 「何を笑ってるのよ」と妻が怪訝そうに尋ねる。 「何か面白いことあったの。ねぇねぇ、パパ、何があったの」と息子がニコニコしながら聞いてくる。 記憶の中の父と今ここにいる父である僕。 今度、実家に帰った時にでも母に話してみよう。 それを聞いた父はきっと「ふ」と言いながら笑うことだろう。 妻と息子が戻って来たので、僕は尋ねる。 「もう良いのか」

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