短編集「ショート/オブ/ショート」
真夜中のテレビショッピングはテンション7割増し増し

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どうやらテレビを付けながらうたた寝をしてしまったらしい。 「今日ご紹介するのは」と相変わらずの甲高い声が部屋に響き渡る。 深夜帯のテレビショッピングのテンションというものは、寝起きには少々辛いものがある。さながらお笑いのコントでよく見るタライが唐突に頭から落ちてくるかのよう。 そんなこちらの状況はお構いなしにテレビの中の販売員は高いテンションを維持したまま口上を続ける。 「なんと、この商品。あのNASAでも使用が検討されたという素材を表面に使おうとしたという一級品」 つまり、NASAでもこの商品でも使われていないということですね。そんな素材の説明をどうして今入れた。 「そして、さらにさらに…!!驚かないでくださいよー」 待て待て。まだNASAで使われていない素材の説明しかしていないぞ。それなのにそんなに溜めるとはどういう了見だ。 「ジャジャン!!」と自分で音声を付ける販売員。テレビならばサウンドくらい用意してほしかった。 「見てください。今朝方に採れた死にたての鮑!!」 いや、言い方な。通常なら「新鮮」と表現するところだぞ、その鮑。 「美味しそうでしょう。ついさっきうちのおばあちゃんが買ってきてくれたんです。お食べぇ、って。そんな鮑の後ろに置いてあるー」 鮑の件、いる?俺にはいるように思えなかったなぁ。何かの伏線にでもなるのかなぁ。そんな風には思えないがなぁ。 「+*p@カラットのダイヤモンド」 ん?なんだって? 「P’d>#%カラットの……ゴホッヘホッエホッ……血だ……」 おいおい、大丈夫かよ。いきなり吐血って随分なホラー展開だな、おい。 ピーーーー。ーーーしばらくお待ちくださいーーー え、何。これ生放送なの。しかも、ガチの血なの。えぇ、マジかよ。あいつ大丈夫か。 それから数十秒が経っただろうか。別の番組を見ても良いし、なんなら寝ても良い時間ではあったのだが、このテレビショッピングの事の顛末が気になり、寝るに寝れない状態であった。 それからさらに数秒後、突如として第二部の幕が開いた。正確には、生放送ということもあり幕を開けざるを得なくなったという状況かも知れない。 「え、僕ですか。無理ですって。これ、そもそも何に使うものなのかもよくわからないじゃないですか。え、とりあえず、売ればいいって。いや、売れないでしょ、こんな得体の知れない物。え、もう映ってるって。え、え?」 先程の人の代わりに初めて見る顔の人がテレビに登場していた。おそらく画面の外にいるテレビ局員と話しているのだろう。ひとまず本音を胸の内にしまえるようになってこその社会人というやつではなかろうか。俺ですら彼の行末を心配になるレベルではある。 そして、テレビに映っているということを知った彼は「へへへ」と愛想笑いをしてみる。 「これを買えば、なんと品物が手に入る」と彼は弱々しく続ける。 彼のどうにかがんばろうという気概は買うが、品物を買ったのだから手に入るのは当たり前だな、と俺は心の中で独りごちる。 「さぁ、どうでしょう。今ならなんと、送料無料で価格は500円。ワンコインでこんなに素晴らしい物が手に入る。これは買わなきゃ損損損」 結局、なんの商品だかとんとわからず仕舞いで商品の説明が終わってしまった。 しかし、ここまで見てもなんだか分からない物というのはよっぽどなんだかわからないものだと思い、この商品がなんだったのかを知りたくなっていた。 そういう訳で、ワンコインの500円ならばと覚悟を決める。 このテレビショッピングの売上に貢献してやろうじゃないかと、テレビショッピングが指定した電話番号に電話をかけ、購入する意向を告げた。 いつの間にやら、後日に何が届くのか楽しみだと感じている俺がいた。 しかし、そんなことも束の間、テレビが衝撃の事実を告げる。 ーーーこの番組はフィクションですーーー なんなんだよ、この番組。何がしたかったんだよ。 俺が頼んだ商品はどうなったんだよ。 「この番組はフィクションですが、商品は一週間後にはお手元に届きますので、どうぞお楽しみにお待ちください」と偽の吐血をした甲高い声の男が締めくくる。 届くのならば、少し待ってみるかと俺は妙に納得した。 その後、そんな一週間前の深夜のことなどさっぱり忘れていた頃に玄関のチャイムが鳴る。 どうやら宅配便のようだ。 そういえば、先週の夜になんだか分からないものを頼んだなと俺は思い出す。 箱の大きさの割りにバカに軽いなと思いながらも、何が入っているのか想像に胸を膨らませる。 そして、早速、箱の中身を開けてみると、一枚の紙切れが入っていた。 俺はその紙切れを丁寧に読む。 「500円で一週間の生きる希望を売る。新感覚テレビ通販「Living Shopping」をご利用いただき誠にありがとうございます。お客様がこれからも生きる気力を失う事のないよう、弊社は尽力いたします。引き続きのご愛顧をお願い申し上げます」 そういえばと俺は思う。 あのテレビ通販を見た日は、自暴自棄になって死んでも良いとすら思っていたな。 それが、あのテレビのおかげでそんな感情がさっぱりと消えていたことに、今ふと気付いた。 「500円で一週間の生きる希望を売る、か」と俺は呟いた。 確かにそれはあながち嘘でもなかった。 そうして、宅配便の箱の中には希望だけが残っていた。

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