私のオロチさま! ~ヤマタノオロチとスサノオが同級生!?~
人と神がラブラブなんて、アメージングだよね! 9

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「ひーめ♪」 「やめろぉ!」 「くしなだひーめ♪」 「やめろぉ姐御ぉ! ぶぅっとばすぞぉ!!」  からかってくる雪那を、元ネタの判らないセリフとともに押し戻す。  じゃれつくな!  私は記憶が戻ってないんだから、その奇天烈な名前で呼ばれたら恥ずかしいんだよ!  つーか、雪那の姐御つよすぎるでしょう。  神の転生なんてもんを目の当たりにして、まったく動揺しないどころか爆笑し、あげく私をからかって遊ぶとか。  どんだけ鋼メンタルなんだよ。  あんたは何があっても犯罪係数が上昇しない女か。 「いいじゃん。最初のヒロインじゃん。クシナダなんて」 「七樹から聞いた話だと、そんなにロマンチックなもんじゃなさそうだけどね」  五歳とか六歳くらいのときに連れ去られて、たぶん初潮がきてすぐくらいのタイミングで孕まされてんだぜ。  最悪じゃね? スサノオ。  どんな変態プレイをされたのか、想像するのも怖ろしいわ。  つーか記憶が戻ったら、そのへん思い出しちゃうってことだよね。うぐはー いやだー 思い出したくねえ。 「でもさ。なんで雪那そんなに落ち着いてんのよ」 「いや。この国には八百万も神様がいるんだからさ。そのうち三人くらいここにいたって、たいして問題じゃないじゃん」 「ものすげー問題だと思うんですけどー」 「こまけぇことは良いんだよ」  ぐしぐしと私の髪をかき回す。  女性陣テントだ。  ヨッパライの母親は、すっかり高いびきである。  私たちの正体を知っても、姐御は態度を変えなかった。  何の問題もなく受け入れてくれた。  なんという大度。  むしろ雪那の方が神様なんじゃねーかって勢いである。  こんな人、クラスカーストのトップに君臨するのは、むしろ当然じゃんね。  面倒見が良くて、他人の状況もきちんと受け止めてくれて、それによって接し方を変えない。  こんな高校生いないって。 「……ありがと。姐御」 「いいってことよ」  さて、波乱のキャンプが終わり、私たちは連れだって安藤氏の自宅を訪ねることにした。  いやまあ、まったく行きたくはないんだけど、ぶっちしたら後が怖いしね。  ちなみに安藤氏は、貿易商を生業としているらしい。  足立区にある彼のマンションは、けっこうというかかなり立派だ。  私ん家の五千倍くらいかのう。家賃。  おそろしい。  分譲だとしたら、もっとおそろしいね! 「で、そちらの方は普通の人間のように思えるのですがね」  右手でこめかみを押さえながら、安藤氏がため息を吐く。  彼の前に座っているのは、私と七樹。それに伊吹と雪那!  ついてきちゃったの、ふたりとも!  討伐指示の出てるスサノオと、ただの人間が! 「や。なんというかな。安藤さん。このふたりはつきあい始めたんだ」  すごく困った顔で七樹が説明する。  そうなのだ。  私たちの正体を雪那に伝えた翌朝、なんと伊吹が告白したのである。  起きだしてきた雪那の前に片膝をつき、 「千歳ちとしの時が流れ、この身が朽ち果て、一握いちあくの砂となっても、お前とともにありたい」  てね。  朝日の中。  みんなの見ている前で。  すごくない?  映画のワンシーンみたいだったよ。 「……ウチはただの人間だよ? 守ってくれる?」  照れ笑いを浮かべながら、おずおずと右手を差し出す雪那。 「三貴神の名にかけて」  恭しく伊吹がおしいただく。  やばい。  思い出したら、また顔が熱くなっちゃう。 「……砂糖を吐きそうな勢いなんですが……とりあえずブラックコーヒーでもいかがですか?」  ソファから立ちあがり、ダイニングに安藤氏がむかう。  中和しないといけないからね。  このでろでろに甘いカップル成分を。 「俺はもうヤマタノオロチと敵対しない。それを宣言するためにきた」  やがて、伊吹が口を開いた。  安藤邸を訪れた用件である。  七樹や私と敵対しないから、討伐とかやめてくれって頼みにきたのだ。 「かまいませんよ。人の伴侶を得たなら、必要以上に人界に神力をもって干渉することもないでしょうし」  あっさりと安藤氏が頷く。  いささか拍子抜けではある。  もっとごねるかと思っていた。 「元より、私たちは高天原陣営に与しているわけではありません。今回は義理があったのと、素戔嗚尊が大暴れしそうだったため、八岐大蛇に討伐を依頼しただけのことですからね」  神としての力を隠し、人として平凡な生を送るというなら、あえて敵対する必要はない、と、美髭の紳士が説明する。  ふーむ。  そんなもんなのか。  ていうか、安藤氏って高天原からの使者とかじゃないんだ。 「儂らは享楽派じゃよ。人界のありようにも高天原のありようにも興味はない。人としての生を楽しみたくて転生しただけじゃからの」  唐突にかん高い声が割り込み、隣室から人影が現れた。  子供だ。  蓮斗より年下。たぶん中学生になるかならないかってくらいの女の子。 「てめ……ニニギ!」  がたりと伊吹が立ちあがった。  天津彦あまつひこ彦火瓊瓊杵尊ひこほのににぎのみこと。えらく長い名前の神様である。  天孫。つまり天照大神の孫だ。  スサノオからみれば、姉のお孫さんってこと。 「高天原にいねえと思ったら地上に……」 「それは大叔父どのも同じですのぅ」 「しかも女になって……」 「木花開耶姫さくやが男になってしまいましたでのう。儂が男に転生してはBLになってしまいますじゃろ?」  しれっと言い返されている。  なんというか、力関係ではたぶんスサノオの方が上なんだろうけど、口ではまったく勝負になってない感じだね。  ニニギってこんなに口が達者なんだ。  しかも、のじゃロリだし。 「非常に失礼なことを考えている顔じゃがの。奇稲田姫。儂は十九じゃ」  年上……だと……?  合法……だと……? 「うむ。風俗でも働ける年齢じゃな」 「その説明いりますか? 妻のほのかです」  苦笑しながら安藤氏が紹介してくれる。  やっぱり今生でも夫婦なんだね。  毒気を抜かれた体で、伊吹がどっかりとソファに座り直した。 「なんかすごいことになってきたね」  雪那が笑う。 「しかし娘御よ。大叔父と交際するとは大胆よの。この方の悪評は人界でも有名じゃろうに」 「過去っていうか前世とか関係ないんで」 「ほう?」 「伊吹はちゃんと秘密を打ち明けてくれた。ただの人間のウチを守ると約束してくれた。それで充分でしょ」  胸を反らす。  スタイル良いから、すげー様になるなー。  こういうポーズ。 「人にしておくには惜しい胆力じゃな」  ほのかさんもまた微笑した。  うん。私も同意見だよ。  姐御はすごいのです。伊吹なんぞにはもったいないのです。  わしの嫁……いやむしろ、婿になってほしいくらいなのです。 「おまえはなにをいっているんだ」  姐御に小突かれました。 「さて。そろそろ本題に入りますか」  こほんと安藤氏が咳払いをする。  私たちはもちろん伊吹と雪那の交際報告のために訪れたわけではない。  てっきりお説教でもあるのかと思っていたのだが、そういう雰囲気ではないようだ。 「説教というか、苦情のひとつくらいは入れたいですけどね。スサノオとヤマタノオロチの共闘は、ちょっとした波紋を呼んでいます」  SNSで思いっきり拡散しちゃったからね。  霊力なり神力なりがある人にとっては、一目瞭然だったそうだ。  不倶戴天の敵たるスサノオとヤマタノオロチが並んで駈けてるんだから、少年マンガのクライマックスかってノリである。 「しかも、九尾の狐まで映りこんでおるしのう。神とあやかしが手を結んだのか、と、噂になったのじゃよ」  やれやれと肩をすくめるほのかさん。  狭い業界だから、噂なんて一秒で広がっちゃうんだそうだ。 「ならば我々も、と動く輩はどこにでもおります」  一方の安藤氏は苦い顔である。  つまり、そういう輩がさっそく神側に接触をこころみたらしい。 「面倒な事態じゃ。ややもするとバランスが崩れてしまうかもしれんからな」  腕を組んだほのかさんの言葉である。  意味が判らず、私は首をかしげた。  

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