生年月日で仕分けられている俺たち高校生が学年の垣根を越えて交流できる場は、全校集会や学校行事を除けば主に二つしかない。一つは放課後のクラブ活動。もう一つは昼休みの学食だ。 調味料の匂いで満たされた霧代西高の食堂は本日も大勢の生徒で賑わい、喧騒に呑み込まれそうになる。食券販売機の前でジャラジャラと小銭を漁っている男子。カウンターに並び、食事より駄弁りを楽しんでいる女子。グループでふざけ合って食べるやつ。一人黙々と箸を進めているやつ。学年も性別もスタイルも異なる俺たちに共通することは皆腹が減っていること。そして、さして美味くもない学食程度で満足を得られる幸せ者だということだ。 でも、中には腹を満たすことだけが目的でないやつも紛れている。俺は購買部で買ったサンドイッチとクリームパンを手に食堂の隅にあるテーブルへと近付いた。白いテーブルには先客がいた。待ち構えるように並んで座った二人の女子。うちポニーテールに髪を結ったほうがこちらを見るなり間の抜けた声を上げた。 「え、昼飯そんだけ?」 「ええ、まあ」 「男のくせにダイエットでもしてんの? そうでなけりゃ不健康なんじゃない?」 「そんなに少ないですかね」 俺は大体いつもこんなものだ。もっとも健康優良児であるかと問われればどうだろう。体育は苦手なのだ。 ポニーテールは人の食事に文句を付けてくるだけあって大皿一杯のカレーを頼んでいる。しかもカツ付き。むしろそちらのほうが女子としては食い過ぎではないか? 「まあまあ、いいじゃない。とりあえず座って。お食事しながら話ししましょう?」 ポニーテールの隣に座ったメガネの女子に促され椅子を引いた。ちなみに彼女は上品な手作り弁当を持参していて、不健康児の俺から見ても実に美味そうだった。 ポニーテールはスプーン片手にもごもごと口を動かしながら名乗った。 「はじめまして。知ってるから来たんでしょうけど私が神坂」 「中山です。今日は美星ちゃんの付き添いできました。よろしくね」 「どうも、一年の藤宮です」 カツカレーを食ってるポニーテールが神坂で、手作り弁当のメガネが中山だ。 神坂は小動物を連想させる小柄な女子で肩の半ばまで届きそうな髪を赤いリボンで一つにまとめていた。あけすけな性格が口調だけでなく顔全体に広がっていて、釣り気味の瞳が快活に笑っている。クラス活動でも率先して動くタイプの人間だろう。そして少々品が足りない。 一方の中山は神坂よりも頭ひとつ分ほど背が高かった。髪は肩を越える程度のセミロングだが、神坂と並んでいるせいか、やや短めな印象を受ける。神坂とは正反対に育ちの良さとでも言うべきものが自然と振る舞いに表れているような人で、先日出会った和装の少女に負けず劣らずおっとりとした雰囲気を醸し出していた。派手さはないが中々の器量よしだ。 「地味な見た目に騙されないでね? この娘、こう見えて結構な猫かぶりだから」 「なあに美星ちゃん? その言い方」 「だってそうでしょー? うりうり」 神坂は中山がかけた眼鏡のフレームを指で掴み上下に揺らした。中山は笑って抗議をする。その様子から見ても二人が気の置けない仲だということが分かった。 頃合いを見て俺は切り出した。 「急にすいません。今日は先輩たちに訊きたいことがあって来て貰いました。さっそく本題に入りたいんですが」 「んー、サンドイッチ食ったら?」 俺はポケットから二枚の写真を取り出しテーブルに置いた。写真には赤く輝くとんぼ玉が一つ映し出されていた。玉の上部からは根付の紐が伸びフレームの中で斜めに横たわっていた。神坂と中山の二人を交互に見比べながら尋ねた。 「このストラップが誰のものかご存じないですか?」
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