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目が覚めたら、朝だった。 頭が痛い。 そっか、昨日俺、飲み過ぎて……。 俺は寝巻きではなかったものの、部屋着を着せられていた。 ……これ、ルスが着せてくれた、ん、だよな? 多分、寝巻きが見つからなくて、適当に着せてくれたんだろうな。 他に誰もいない寝室を見渡す。 起き上がると、尻が痛かった。尻に体重がかかるとずきんずきんする。 入り口は、服に擦れる度ヒリヒリしていた。 その痛みに、ああ、よかった。夢じゃないな。と俺はひどくホッとする。 見れば、昨日のバスローブが、ハンガーに干してあった。 ……まさか、あいつわざわざこれ手洗いして帰ったのか? そう思いながら、ひとまず水でも飲もうかと隣の部屋に移動すると、ソファにルスが寝ていた。 「!?」 えっ。 えっ!? まじで!?!? バクバクいう心臓を押さえながら、息を殺して覗き込むと、ルスはゆっくり目を開いた。 「……レイ……。おはよう」 ルスは、学生の頃のように、寝起きのふにゃっとした顔で柔らかく微笑んだ。 髪は全部は解けていなかったが、半分近く解けていて、さらさらとその額に頬にかかっている。 「……っ!」 「体は大丈夫か……? 痛むところは無いか?」 まだ眠そうな声が尋ねてくる。ルスの実直そうな太い眉がじわりと寄せられた。 「ぁ、大丈夫……」 寝起きのルスは、あれから二十経っても、やっぱり可愛すぎた。 俺は真っ赤になる自分の顔に堪えきれず、両手で顔を覆った。 「……隠さないでくれ」 なんでだよ!!! 俺は、お前に情けないとこ、見られたくねぇんだよ! 心で叫ぶ俺の手首を、ルスが掴んだ。 ぐいと手を避けられると、覗き込むルスの小さな瞳と目が合う。 「お前がすぐ赤くなる事くらい、知っている。レイ、俺に顔を見せてくれ」 「……っ」 ……そんな風に頼まれたら、断れないだろ……。 おずおずと両手を離すと、ルスはにこりと笑って言った。 「ああ、俺の嫁は、今日も美丈夫だな」 「なんっっっっ……」 なんつーことを言うんだ、おい!!! 『俺の』!?『俺の』嫁って言ったのか!? ルスが!? ってか俺が『嫁』か!? そこは確定なのか!!?? さらに真っ赤になって目を回している俺の顎を、ルスの温かい指が撫でる。 そのまま優しく引き寄せられて、口付けられる。 息が止まる。瞬きもできずにいる俺を、そっと離してルスが言った。 「まだ酒臭いな」 「っ……悪かったな」 「二日酔いか?」 「……まあ、な……」 情けなくて、目を逸らして俯いた俺の頭をルスが撫でる。 「……っ」 こいつ、こんなに触れてくる奴だったのか!? 一瞬、あの奥さんにも、毎日こんなふうに優しく触れていたのかと、胸に暗いものが過ぎる。 その暗闇を振り払おうとブンブン頭を振る。と、痛みにふらついた。 ルスは素早く半身を起こし、俺の肩を支える。 「何をやってるんだ。ほら、ここに座っていろ。水を汲んでくるから」 窘めるように言って、ルスは立ち上がる。杖を手に取って。 コツ、コツ、と杖の音が、静かな部屋に響く。 ルスはテーブル前で杖を置いて、それから水差しを取った。 「お、俺っ」 思わず声を上げた俺を、ルスが振り返る。 「俺、ルスの足になる! この先、ずっと、ルスの面倒見るから!」 ルスはちょっとだけ困ったように笑って言った。 「気持ちはありがたいが……。昨日も今日も、お前の面倒を見ているのは俺だぞ?」 うっっっ確かにっっっっっ!! 俺は、またも格好が付かずに赤面するしかなかった。 酔い潰れた俺の介抱も、寝てしまった俺の後始末も、全部ルスが…………。ん? 俺の、後始末って、俺の……まさか……。 立ち上がっても、歩いても、俺の尻から何かが出て来る気配はなかった。 いや、一晩も経てば吸収されたりする……とか……? 「ほら、ひとまず水でも飲んで、落ち着け」 コツ、コツと杖の音とともに、ルスが水を持って戻ってきた。 「あ、ありがとう……」 受け取って、口に含むと喉が乾いていた事に気付く。 ごくごくと一気に飲み干すと、ルスが空のコップを受け取った。 「もう一杯飲むか?」 「ああ、頼む…………じゃなくて!」 「ん? 要らないのか?」 「いや、いる。水のおかわりはいる」 コツ、コツとルスがまたテーブルへ向かう。 その背を見つめながら、俺は昨夜の後始末について思う。 まさか……。 まさかとは、思うが、ルスが……、ルスが俺の、尻から……っ!?。 その様子を想像すると、どうしようもなく体が熱くなる。 戻ってきたルスは、水を差し出して言った。 「お前、顔が赤いぞ、大丈夫か?」 「あ、ああ……」 俺は水をもう一杯飲み干すと、尋ねる。 「なあ、お前、昨夜、俺が寝てから何した……?」 ルスは空のコップを受け取ると、小さく首を傾げて答える。 いや、その仕草は可愛過ぎる……っっ。 「えーと。お前の体を綺麗にして、お前に服を着せて、バスローブを洗った。くらいか?」 「き、綺麗にって、具体的には?」 「中に出した俺のを掻き出して、体を拭いたくらいだな」 平気そうに答えてるが、何か、思うところはなかったのか……? 「腹の調子はどうだ? 痛むところは本当にないのか?」 真剣に尋ねられて、俺は正直に答えることにする。 「腹は平気だが、下は多少……痛いな。まあ、こればっかは仕方ねぇよ」 俺の言葉に、ルスは小さくため息を吐いて、俺の頭を抱き寄せた。 柔らかな胸に、顔が沈む。 いや、自分はそこまでムキムキじゃないので知らなかったが、ムキムキの胸って、力抜いてる時は柔らかいんだな。 昨日も思ったが、これはアレだろ。下手すりゃ巨乳レベルに揉み応えあるんじゃねぇの? まあ、ちょっと力入れられちまうとガチガチになるんだけどな。 「無理させて、悪かった」 「はぁ? いや、全然っっ。つか誘ったの俺だし! ルスはすげぇ、優しかった、し…………っっ」 反射的に答えて、それから赤面する。 昨夜、ルスが優しく俺の中を解してくれた、その感触が蘇って、下腹部が熱くなる。 真っ赤に染まる俺の顔を、ルスがじっと見下ろしている。 ふい、とルスが視線を逸らして、俺を抱いていた手を離すと背を向けた。 え……? ルスは杖を手にすると、コツ、コツ、とテーブルに戻る。 そこでルスも二杯、水を飲んでから、俺に背を向けたまま言った。 「じゃあ、長居したな。体、しっかり休めとけよ。また午後にな」 「え、ちょ……、ルス……?」 なんだ? 様子がおかしい。 いつも、別れ際には、必ず顔を見て挨拶する奴が、そのまま背を向けて帰ろうとしてるなんて。 俺は思わずその背を追いかけた。 「ま、待てよ!」 玄関前で追いついて、肩を掴むと、ルスの肩がびくりと揺れた。 が、ルスはこちらを振り返らない。 「お前……なんかおかしくないか?」 「……」 ルスの返事はない。

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