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団長に言われた言葉が蘇る。 団長はあんな人だが、先を読む力と人を見る目だけはある。 その団長が、遠回しではあったが、俺はルストックと付き合えるだろうと言った。 本当に……。 本当に、そうなのだろうか……。 投げられた小石から生まれた小さな波紋は、胸の中で大きく広がり、必死で抑え込んでいた期待を、否が応にも膨らませる。 「なあ……。その足……、見せてもらってもいいか?」 思わず口を突いて出た言葉。 ルストックは少しだけ眉を寄せて、困ったような顔で答えた。 「……構わんが、あまり気分の良いものではないぞ」 ルストックは動かない足を両腕で抱えるようにしてベッドの上へと持ち上げる。 一瞬ズボンの裾をめくろうとして、それでは傷痕が出ないことに気付いてか、ルストックは腰のベルトに指をかけた。 俺の心臓が大きく跳ねる。 今までだって、着替えが一緒になることなら数え切れないほどあった。 けど今日は、そうじゃない。 ここは俺の家で、俺のベッドで。 ルストックは、俺にそれを見せるために、俺のために、脱ごうとしていて……。 ごくり。と唾を飲み込んだ音が、ルスにも聞こえたんじゃないかと、俺はチラと親友を盗み見る。 長い付き合いの親友は、俺の動揺になんて欠片も気付かないまま、ベルトの前を開けると、ずるりとズボンを下ろした。 「っ……」 その痛々しい傷痕に、一瞬、息を詰める。 傷は、太ももの内側から始まり、膝裏を大きく抉って、ふくらはぎの中程まで続いていた。 傷口は塞がりこそしていたが、まだ薄い出来たばかりの皮膚は、その下の赤色を鮮やかに透かしている。 抉られた肉は所々が引き攣れ、傷口との境は少しボコボコとしていた。 「……触っても、いいか?」 俺は、自分の声が震えているのに気付いた。 ルストックは、心底困ったような、どこか辛そうな顔で俺を見つめた。 「泣くなよ……」 言われて、頬を伝った温かいものが、ポタリと落ちた事に気付いた。 「あ……」 俺は慌てて顔を腕で擦る。 酒が入ってるからだろうか。涙脆くて困る。 泣けば、こいつを困らせてしまうだけなのに。 「わ、悪い……」 「いや、謝る必要は無いが……」 ルストックは困った顔に苦笑を滲ませると、ふう。と息を吐いてから、答えた。 「お前が触りたいなら、いくらでも触ってくれ」 おいおいおい! 言い方ってもんがあるだろう!? お前がズボンを下ろしたここは、俺の家で、俺のベッドの上だぞ!? 俺は、茹で上がりそうな頭で、赤くなりそうな頬を酒のせいにしつつ、震える指先でそっと傷口をなぞる。 「っ……!」 びくりとルストックの肩が揺れて、俺は慌てて手を離した。 「痛むか?」 焦りを滲ませて問えば、ルストックはさっきよりもほんの少し頬を赤くしていた。 「いや、くすぐったくてな」 俺は、あからさまにホッとしてしまったのか、ルストックが苦笑を浮かべる。 「まあ、強く押されれば痛むが、服が擦れる程度なら大丈夫だ」 「そうか、良かった……」 俺は、安堵とともに、柔らかな太ももの内側の傷をゆっくりなぞりながら、まだ薄いその皮膚にそっと唇を寄せた。 淡いピンク色に透ける薄い皮膚は、つるりとして柔らかく、まるで瑞々しい唇のようだ。 …………そこで、ようやく気が付いた。 流石に、口付けたらダメだろ。 うわ、やべぇ、やっちまった!! か、顔上げんのが怖すぎる!! ど、どうする!? 酒に酔っててウッカリとか、そんな感じで誤魔化せるか!?!? 実際そんなもんだよな!?!? だとしたらあんま長く沈黙してんのは不味いよな。 でも、ルスの肌、なんかすんげえいい匂いするし、なんか、毛の生えてないとことか物凄いすべすべしてるし、離したくねぇな……。 俺は、気付けば夢中で、その肌に舌を這わせていた。 ふくらはぎから、傷痕を辿るように、膝裏を撫でて、太ももの内側へ。 ルスの匂いは、学生の頃よりも強く、壮年男性らしくなっていて、でも、どこかほのかに甘ったるい感じが変わらないなと思った。 太ももの内側に入ったあたりで、傷痕は途切れていた。 その際までを丁寧に舐め上げていると、ルスが小さく身じろぎした。 「っ……」 小さな息に、俺はハッと我に返る。 「悪ぃ!! その、うっかり……」 跳び退く勢いで身体を離せば、ルスは頬を真っ赤に染めて目を伏せていた。 な………………。 なんだこの、色っぽい顔は……。 いまだかつて見たことのない親友の表情に、俺は魅入られる。 「……痛くなかったか?」 尋ねると、ルスは赤い顔のまま、コクリと頷いた。 なんだこれ。可愛すぎる……。 え、なんだ、これ、もしかして、まだ触っても許されるのか……?? 心臓が、ドキドキし過ぎて痛い。 俺は震える指先で、ルスの太ももの内側をそっと撫でた。 びくり。と小さくルスの肩が揺れる。 すべすべの肌に頬を寄せる。 あー。すげぇきめ細かいな。ほんっっとすべすべしてる。 なんでこんないい匂いなんだよ……。 柔らかな肌に口付けると、ルスが小さく息を漏らした。 「っ……」 じわりと、俺の目の前で、下着の中のルスの物が形を変える。 これって、俺に触られて、感じてるって事か……? どうしようもなく嬉しくて、喜びが胸いっぱいに広がる。 いやでも待てよ、身体が反応してたって、ルスがどう思ってるか……。 俺は、恐る恐る視線を上げる。 もしルスに軽蔑の眼差しを向けられていたら、俺はもう立ち直れないかも知れない。 見上げたルスは、小さな黒い瞳をほんの少し滲ませて、上気した頬でこちらを見つめていた。 ああ、そうか。騎士に二言は無いもんな。 いくらでも触っていいと言った以上、ルスは俺を止めないんじゃないか……? ぞくりと、背筋を熱いものが上がる。 思い出せ。ルスはどこからどこまでを、触っていいと言ったか? 足に限定しては、いなかった……、よな?

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