夏草の萌える頃
第二十八話

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「俺フランクフルト! おっ、フレンチドックもいいな。あっ、焼きソバもある!」  屋上に着いた途端、まっさきに食い物に目がいく渡会が、一目散に駆け出す。 「元気な奴」  言って薫が、空いているベンチに鞄を放って、腰を降ろす。 「僕はアイスでも食べようかな。裕也はどうする?」 「俺はソフトクリーム。薫もなんか食う?」 「俺、ソーダがいいな。水色のヤツ。買ってきてくれる?」 「オシ! ソーダな!」  薫が投げてよこした小銭をキャッチし、先に売店に立つ直己と渡会の後を追う。  薫が座ったベンチを中央に、ゆるく円を描いて並べられているベンチのひとつに、直己と渡会が並んで座る。ソフトクリーム片手に、裕也が薫の隣に座る。  町一番の高い建物の屋上は、空が近い。ここの所ずっとぐずついていた天気が、今日は嘘のように晴れ渡っていた。午後の陽射しは薄水色に染まり、穏やかな風も心地良い。のどかで優しい陽だまりは、受験も進路も不安な未来も飲み込んで、裕也たちを包んでいた。何処までも遠く澄み切った空が、この一瞬の開放を永遠に変えてくれそうな、そんな日だった。  あまりの気持ちよさに、裕也が両手を伸ばして「う~ん」と伸びする。 「やっぱ、屋上最高」  隣に座っている薫が、頤を逸らせて晴れやかに言う。キラキラとした陽射しを受けて、薫の色素の薄い髪が、金色に散っている。 「なぁなぁ、夏休みに入ったらさ、皆でどっか行こうよ」  早々にフランクフルト入りの焼きソバを平らげた渡会が、上機嫌で言う。 「ええ? 何言ってんだよ! 渡会は受験勉強だろ? こん中で一番危ないんだから」  直己が顔をしかめる。 「もちろんするよ。でもさ、一日くらい良いじゃん。ちょっとの息抜きは脳みそにも良いんだぜぇ」 「良くなる土壌があればの話だけどな」 「ひっでぇー、薫、そういうこと言う? 友達だろぉ!」  唇を尖らせる渡会がベンチから身体を乗り出して、今度は裕也に向かって問いかける。 「じゃぁ、じゃあさ、花火大会は?」 「あぁ? 夏の全国花火大会?」 「うん!」 「ああ~。でもなぁ、あれ、毎年めちゃめちゃ混むんだよなぁ」  気乗りしなさそうに言うと、渡会がすっくと立ち上がって、裕也の前の芝生にどっかりと座り込む。 「えーっ、行こうよ! もしかしたら、このメンバーで行けるのって、今年で最後かもしれないんだぜ!」  渡会の言葉に、裕也の胸底に、なにかがグサッと刺さった。 「俺は来年の夏には東京だろ? 直己だって裕也だって、どこの大学行くかわかんないし、皆バラバラじゃん」  屈託なく言う渡会の言葉が、グサッグサッと、胸を突く。

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