夏草の萌える頃
第二十七話

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「渡会のせいだ」  これでしばらくは図書館に顔を出せないと、直己がしょぼくれる。 「なんでなんでぇ? 俺のせいじゃないもんねぇ。俺、真面目だったも~ん」  天下泰平の渡会に、反省なんてあるはずがない。まるで他人事みたいに言って、気持ち良さそうに向かい風にあたっている。  三台の自転車が、のんびりと進んでいく。  夏に向けて、日はどんどん延びていた。夜は遅くなり、裕也たちの行動時間は長くなる。見上げた空は、まだまだ青い。 「これからどうするぅ?」  先頭に立っていた度会が、間延びした声で問いかけてくる。そのすぐ後ろを走る直己が、薫を荷台に乗せた裕也を振り返る。 「とりあえず、どっか入ろっか?」 「どっかって?」 「上」  問い返す裕也の後に続いたのは、薫。 「上?」 「ああ、屋上ね」  裕也の疑問符に直己が応えて、前を行く渡会に呼びかける。通りの右側にある巨大なショッピングセンターを指差して、同意を求める。  広々とした敷地を悠々と使って建てられたショッピングセンターの屋上には、小学校低学年向けの小さな遊園地と、人工芝生が敷き詰められた空中庭園があった。遊園地と庭園は、季節ごとに変わる出店で遮られている。  夏になると、薫はいつも其処に行きたがる。  芝生に寝転んで見上げる空は、一切の建物を排除してどこまでも広がっている。その清々しい一瞬、視界全部が空で覆われた一瞬だけは、何かを独り占めした気分になれると笑って言う。

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