直己自身の結果は、学校からの道すがら、すでに聞いていた。誰に聞かれても恥ずかしくない、合格圏内を確保している直己は、道端でも躊躇なく結果を報告する。直己の進学希望は、県内唯一の国立大学。両親と同じ教職を目指す進路に、ブレはないらしい。 一方、裕也はというと、この日に至っても自分の進学先を三人に告げていなかった。別に意図して隠していたわけではなく、実は裕也はこの期に及んでもまだ、進学先を決めかねていたのだ。 夢は、あった。というか、見つけた。 でも、その夢に対する情熱が生ぬるく、是が非でもといった切実な感情がともなっていなかった。 ちらりと薫に視線を移す。 薫は会話の輪からはずれて、一人裕也のベッドにうつ伏せに寝転んで、裕也が買ってきた漫画を読み耽っている。 「渡会と一緒ってことはないよね?」 重ねられる直己の問いかけに、裕也の意識が自分の判定に戻される。 今回の模試。裕也は第一希望に、駄目もとで、ある大学を記入していた。それは度胸試しに近いものでしかなかったのに、その結果が、思いのほか良かった。予想外の結果に、裕也は正直、戸惑ってしまっていた。 まったく無理といわれれば、それを言い訳に夢を諦めるつもりでいた。けれど、生半可な結果は、裕也のふらふらと落ち着かない夢に、揺さぶりをかけただけだった。 「微妙なライン……かな? これからの頑張り次第ってとこ」 その言葉に、嘘はなかった。 「ふ~ん。そっか。裕也がそう言うんだったら、心配ないね」 深追いしない直己の、前のめりになっていた身体が退く。 「え~っ! じゃ、もしかして、危ないのって俺だけ?」 「だぁね」 直己の素っ気ない返しに、渡会がもごもごとぶーたれる。 「なんか直己、今日ずいぶん冷たくない?」 「渡会がいい加減だからだろ?」 「どこがだよ! 俺、これ以上ないってくらい真剣だよ!」 そうは見えないのが、渡会の哀しいところだろう。何をやっていても、口を開けばコメディにしかならない。 「いいもん、いいもん。最終的には、予備校って手もあるもんね」 「だったら最初っから、予備校狙いにすれば?」 「え~っ、それはないよ。あんまりだ」 ますます肩を落とす渡会に、裕也と直己がけたけたと笑う。 模試の結果が出ても、まだまだお気楽ムード漂う三人とは別に、薫はベッドに寝そべったまま、最後までこの会話に加わることはなかった。
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