翠雨も半ば過ぎ、頬に触れる風に、初夏の香りが漂い始めていた。 「俺、マジでやばいよ!」 一雨ごとに眩しさを増す陽射しとは裏腹に、涙にくれる男がひとり。 「どうすんだ? これ!」 渡会がぴらぴらと振っているのは、全国模試の結果だ。薄っぺらな紙には、そこにレベルの差こそあれ、目指す大学の合格率がクッキリハッキリ、ランク付けされている。 「E、E、E! 全部E! 信じらんないよ」 第一希望から第三希望までの大学、全部がE判定。五段階評価の最低ランク。「希望の大学は無理ですよ」のサイン。普段は必要以上に能天気な渡会も、今回ばかりは頭を抱えているようだった。 その日、ピラピラな紙に現実を突きつけられた四人は、そろって裕也の部屋にいた。 いつもなら、コンビニかファミレスかハンバーガーショップになだれ込むのに、各々の能力の限界を印刷された紙切れに、なんとなく、外でわちゃわちゃしゃべり倒せなくて、誰が言ったわけでもなく、なんとなくの流れで裕也の部屋に集まっていた。 「東京行き、諦めたほうが良いんじゃない?」 直己の冷静な判断に、涙目が向けられる。 「簡単に言うなよ! 東京には茜ちゃんがいるんだぜ! 俺は死んでも、東京にもどらなきゃ駄目なんだよ!」 遠距離恋愛中の彼女の名前を叫ぶ渡会を冷めた目で見下ろしながら、裕也は「死んでどうやって戻るんだ?」なんて心の中で突っ込んでみる。 通学電車で見かけるだけだった「茜ちゃん」に、渡会が決死の覚悟で告白したのは転校前。当の「茜ちゃん」も渡会に憧れていたらしく、ふたりは大学での再会を約束しているらしい。 「なぁ、常々疑問だったんだけどさ、茜ちゃんってさ、おまえの普段、知ってんの?」 「普段って?」 「だから、そのアホさ加減」 裕也の言葉に、直己がぷっと吹き出す。 「戻ったところで、こんなはずじゃなかったって、泣かれるだけなんじゃないの?」 続く裕也の意地悪な発言に、こらえきれないとばかりに直己がケタケタと笑い出す。そんな直己に、渡会の拳が飛ぶ。けれど、拳は器用にかわされて、渡会は壁に喧嘩を売ってしまう。当然負けて、びりびりと痺れてしまった拳をさすりながら、涙声で訴える。 「おまえらなんかに、俺らの純粋な愛情がわかってたまるか! 茜ちゃんは、俺がどんなんでも好きだって、言ってくれてるんだからな!」 「はいはい、ごちそうさま。それよりさ、裕也の結果ってどうっだったの?」 グシッと鼻をすすりながら本気で落ち込んで、小さくなっている渡会に適当な返事を返して、直己のくるんとした目が、興味津々と言った感じで裕也に向けられる。
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