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「まったく、渡会の頭の中は、食う事と遊ぶ事ばっかだな」  突き放すような言動は、薫。 「そんなんだから、追試食らうんだよ」 「酷い、薫ちゃん。それ、さすがに俺だってショックだったのに」 「気色悪い呼び方すんな!」  大きな身体をくねくねさせて涙声でふざける渡会に、薫がバンとテーブルを叩く。今度は向かい合わせで小競り合いが始まって、またもや「まぁまぁ」と宥め声が入る。 「どうしたの? 薫君。今日はずいぶんご機嫌斜めだね」  直己にやんわりと諭されて、薫がぐっと言葉を詰まらせる。  ふーっと逆立っていた毛がふにゃんと収まって、そのままポスンとソファーに沈み込むと、プイっと言った感じで他所を向く。  その様子をちらりと見やって、裕也はほっと息を吐き出す。  我儘な言動にカチンと来ることはあっても、必要以上に薫を興奮させたくない。それは此処にいる三人皆、同じ気持ちだった。 「でも、この期に及んで追試は厳しいよな」  黙り込んでしまった薫の代わりとばかりに、裕也が渡会に追い討ちをかける。 「なんだよ、裕也まで」 「なんだよ、じゃないよ、渡会。みんな心配してんだよ。そろそろ本気出さないと、希望のとこ、いけなくなっちゃうよ」  直己に真剣に言われて、渡会がしゅんと肩を落とす。 「俺だってそれなりに、いろいろ考えてるよ」  決まり悪そうにぶつぶつ言って、がさごそと薄い鞄から、プリントを取り出す。 「今日だってさ、夏期講習の申し込みしようと思って、準備してきてるんだよ」 「へぇ、それはすごい。どこの塾?」  ぴらりと広げられた申込書を覗き込んだ直己が、いきなりガタンとその場に立ち上がる。 「コレ、申し込み、今日の二時までじゃないか!」 「えっ?」 「どれどれ? あっ、ほんとだ。おい、あと十分ないぞ」 「えーっ!」  直己の叱責と、のんびりとした裕也の合いの手に、渡会の素っ頓狂な声が被さる。 「これ、隣町なんだよ。もう無理じゃん!」 「もう、なんだってこう抜けてるんだよ」  呆れたように溜息を吐いた直己が、今度は本当に涙声になってしまった渡会の背中を、ポンと叩く。 「ここ、僕も受けるとこだから、僕が先生に話しつけてやるよ」 「ほんと!」 「うん。ほら、行くよ」 「うん!」  わんころみたいに尻尾を振って、渡会が直己の後に続く。 「悪い、裕也。ここ、立て替えといてくれる?」  くるんと振り返ったのはもちろん、気配り上手の直己。 「ああ、いいよ」  すんなりと了承したかに見えた裕也が、ニッと意地悪く笑う。 「ここは渡会のおごりで決まりだな。来週集金するから、準備しとけよ」 「えーっ! なんでだよ!」  裕也の一方的な決定に、回れ右した渡会の、首根っこが捕まえられる。 「文句はあと! ほら、急いで」  直己にポカリと叩かれて、キャンと頭を抱える渡会は、なんだか情けない。頭二つ分は小さい直己の後を、すごすごとついていく。

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