みらいロボットの夢
エピソード6 第1話 地上の太陽

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 それから1週間後。 JAPANロボットプロジェクトチームから、会社宛てにセレモニーの招待状が届いた。 今川、磯屋、真浦の3名が代表して出席することになった。 招待状には、 「ついに、日本初核融炉かくゆうろ原子力発電所始動!」と書いてある。 最寄り駅に到着すると、3人はタクシーに乗り込んだ。 「核融炉原子力発電所までお願いします」    磯屋が行き先を伝えた。 「お客さんたちも、開幕式に出席するのですか? 」    運転手がミラー越しに訊ねた。 「はい」     今川が短く答えた。 「ご苦労様です」    運転手が軽く頭を下げた。 タクシーが、核融炉原子力発電所手前に差し掛かった時だ。 目の前を、プラカードを掲げながら、 道いっぱいに広がり行進している団体が通り過ぎた。 「あの看板を見てください。 核融炉原子力発電所建設反対と書いてあります」    磯屋が、核融炉原子力発電所の敷地入り口付近に建てられた巨大な看板を指差すと言った。  タクシーが、看板の横を通り過ぎた時、人ごみの中から、汚い言葉のヤジが聞こえた。  タクシーは、核融炉原子力発電所の手前で停まった。 タクシーの運転手が、鉄門の前にいた警備員に通行証を見せると鉄門がゆっくりと開いた。 鉄門を通過すると、数台の監視カメラが一斉にタクシーをとらえた。 玄関の前でタクシーを降りると、軍服姿の背の高い男が、 3人の方へ向かって歩いて来るのが見えた。 よく見ると、人間の男ではなく、男性型ヒューマノイドだった。 「株式会社ゼウスニア御一行様ですね?  お待ちしておりました。専用カーまでご案内します」    その男性型ヒューマノイドは、 3人を専用カーの前まで案内すると来た道を戻って行った。 「専用カーで移動しなければならないほど、 広大な敷地に建っているということでしょうか? 」     磯屋が、周囲を見渡しながら言った。  それから5分後。専用カーは、 近未来の建物を模した造りの 核融炉原子力発電所の玄関前に停車した。 「ここが、日本初の核融炉原子力発電所ですか? 」    磯屋が言った。 「さあ、行くぞ」    今川が、磯屋の背中をバシッとたたくと言った。  案内板に従い中庭に出ると、 開幕式の会場が設置されていた。 3人は、緊張した面持ちで招待者席に着いた。 JAPANロボットプロジェクトチームの席に、 大内望月の姿を見つけて、今川は小さく、「なんで、あの人が‥‥ 」とつぶやいた。 「社長。大内弁護士がいらしています」    磯屋が、今川に耳打ちした。 「大内弁護士は、プロジェクトメンバーの1人なのです」    聞き覚えのある女性の声に驚いて横を向くと、 シン・ヤンミョンがいつの間にか隣に座っていた。  セレモニーの後、今川たちは、 シン・ヤンミョンの案内で施設内を見学した。 3人が目にしたのは、 白衣姿のサイボーグたちが働く現場だった。 「あの。これは、いったい、どういうわけですか? 」    真浦が、前を歩くシン・ヤンミョンの背中に向かって訊ねた。 「すでに、お気づきかとは思いますが、彼らは人間ではありません。 遺伝子の組み換えにより、誕生したサイボーグです」    シン・ヤンミョンが平然と告げた。 「すげえ! マジかよ! 」    磯屋が感嘆の声を上げた。 「もちろんです。彼らは、まさに、最先端技術により 生み出された人類の救世主ですわ」    シン・ヤンミョンが満足気に告げた。 「政府が、公的機関での使用を許可されていない サイボーグを働かせることを認めるわけがないと思います」    今川が冷静に言った。 「私がご説明しましょう」    その時、ドアが開いて、 バイオミティクス研究者の真鍋晃子が姿を現した。 セレモニーにはいなかったことから、てっきり、無関係と思っていたが、 ここに現れるということは関係しているらしい。 「あなたはたしか、真鍋晃子さんですよね? 」    磯屋が前のめりの姿勢で訊ねた。 「さようです。彼らは、単なるサイボーグではございません。 国の許可を得て製造されたサイボーグです。 ところで、みなさんは、くまむしについてご存じですか? 」    真鍋が、3人に向かって訊ねた。 「いえ、知りません。教えてください」    真浦が生徒のように答えた。 「手短に説明しますと、くまむしのからだは、 放射能に耐えることが出来る構造になっています。 我々は、バイオミミクリーバイオインスパイアードの技術を駆使して、 くまむしの構造や特徴を真似たサイボーグを完成させました。 ここにいるサイボーグは、放射能に耐えることが出来ることから、 まんがいち、放射能が、施設内に、もれ出したとしても故障することはございません」    真鍋が淡々と説明した。 「サイボーグを働かせるというのは、 行き過ぎていると思います。 もう少し、時間をかけて行う必要があったのでは? 」    今川が、真鍋に訊ねた。 「ここに来るまで、反対派のデモを目にしたと思いますが、 あの人たちを説得出来るまで待っていたら、 この国は、世界からおくれを取ることになります」    シン・ヤンミョンが代わりに答えた。 「あの、初歩的な質問ではずかしいのですが、 お訊ねしてもよろしいですか? 」    真浦が訊ねると、 シン・ヤンミョンと真鍋が同時に、「どうぞ」と答えた。 「核融合発電というのは、 従来の核分裂発電とは違うのですか? 」    真浦が神妙な面持ちで訊ねた。  真鍋が説明をはじめた。  核分裂は原子爆弾。 核融合は水素爆弾と言えばわかりやすいでしょう。 核分裂発電とは、 ウラン、プルトニウムといった重い原子核が、 中性子を吸収して、軽い原子核に分裂する際に発生する エネルギーを原子炉で取り出して発電します。 一方、核融合発電とは、 軽い原子核の重水素と三重水素(トリチウム)を 燃料とした核融合反応を使います。 この反応により、中性子という粒子が、ものすごいスピードでプラズマから飛び出します。 プラズマの周りにブランケットと呼ばれる壁を置くと、 そこに、中性子がぶつかり熱に変わります。 この熱を使って水を沸騰させて水蒸気に変えて、 タービン発電機でまわすことにより電気を作り出します。 反応を維持するためには、 高い高度で長時間、一定の空間に閉じ込めておくことが必要です。 核融発電は、二酸化炭素を減らし、 より多くの人たちが電気を使えるようにすることが目的で採用されました。 燃料の重水素と三重水素は、海水中に豊富に存在するガスなので、 枯渇する心配はなくコストがかかりません。 二酸化炭素や高レベル放射能廃棄物が発生しません。 原子力により、事故が発生しても暴走しないので安全です。 「核融合とは太陽で起きている状況を 人工的に作り出す方法で、 反応を維持するのは技術的に大変困難で、 不具合や調整ミスが自動的に、停止に結びつき再開が出来ない。 三重水素の放射能の管理や放射性廃棄物がネックになって、 実験成功とまでには至っていないと聞いたことがあります。 実験成功はもちろんのこと、 ましてや、核融炉を日本につくるなんてありえませんよ」    今川が言った。   「日本の技術をもってすれば、 この世で、出来ないことはございません」    真鍋が穏やかに告げた。 「トリチウムは、宇宙線と同じで放射能が含まれています。 核実験で人工的に作り出すことが出来ます。 悪いやつらの手に渡れば、核兵器に使用されるかもしれない。 トリチウムと重水素を融合させるとなると、 関わる人間には、白血病や脳腫瘍のリスクがあります」    今川が訴えた。 「まんがいちの場合は、サイボーグたちがその身をていして壁となり、 外への放射能もれを防ぐことになっています。 ですから、放射能汚染という惨事は99%ありません」    シン・ヤンミョンが自信満々に断言した。 「案内して頂きありがとうございました」 「気をつけてお帰りください」    3人は、エレベーター前でシン・ヤンミョンと 真鍋の2人と別れてタクシー乗り場へ向かった。  専用カーに乗るとすぐ、元来た場所に到着した。 今川は、タクシーを待つ間、ふらりとトイレへ向かった。  

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