みらいロボットの夢
エピソード8 第1話 裏の顔

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「社長。ご無事で良かった」    オフィスに入るなり、真浦が駆け寄って来た。 「いったい、何のことだ? 」    今川はとっさにとぼけた。 「大内弁護士から、 押田さんのバーに駆けつけた刑事に捕まり、任意で取り調べを受けていると聞きました。 釈放されたということは、疑いは晴れたんですね」    真浦が言った。 (あの野郎、余計な真似しやがって!) 「実はそうなのだ。まいったよ」    今川が言った。 (あの野郎。押田のことを真浦にしゃべるなんて、どうかしているぜ) 「押田さんは、何かと、問題を抱えているようですし、 これを機に、押田さんとは、連絡を絶った方が良いと思います」    真浦が神妙な面持ちで言った。 (いったい、大内は、真浦にどんな説明したのだ?! ) 「押田はどうなった? 」    今川が訊ねた。  フィンに聞いたがわからないと言われて、 その後、いろいろあって、押田の消息はわからずじまいだった。 何があっても、やはり、押田のことは気になる。 「知りませんよ。あんな人のこと、この際、どうで良いではないですか? 」    真浦が怒ったように答えた。  どうやら、弥勒ボートは、警視庁ともつながりがあるみたいだし、 きっと、そのうち、押田も釈放されるはずだ。 「押田さんって、社長のご友人だと聞いていましたけど、 いったい、どんな人なのですか? 」  真浦が訊ねた。 「大内弁護士が何と言ったか知らないが、あいつは、そんな悪人じゃない」    今川が答えた。 (真浦のやつ。ふだんは、他人に興味なさそうにしているくせに、 今回にかぎって、なぜ、こうもしつこいのだ? ) 「とにかく、押田さんには、用心した方が賢明です」  真浦が念を押した。 今川は何気なく、スマートフォンを見た。すると、東元から着信が入っていた。 社長室に入った時、東元から電話が来た。 「今川社長。つながって良かった」 「何度か、お電話頂いたみたいですね。 すぐに、出られなくてすみません」    今川が言った。 (石川氏と自分の過去を知ったら、東元は、どう思うだろうか? ) 「別に約束したわけではありませんし、こちらの都合でかけているのですから、 どうかお気になさらず。実は、お話ししたいことがあってご連絡差し上げました」    東元が言った。 「何かあったのですか? 」    今川が訊ねた。 「真鍋晃子らしき人物が、 石川氏の自宅近くの店の前に設置されていた防犯カメラに映っていたんですよ。 時刻を確認したら、石川氏の死の直後だったということで 任意で、取り調べを受けたみたいです」    東元の声はいつになく興奮していた。 「偶然だとは、考えられませんか? 」    今川が言った。 警察が、任意とはいえ、石川氏の死と無関係の人物を取り調べるはずはない。 しかし、2人を結び付けるものと言えば、UFO事件しか思い当たらない。 「石川氏は、真鍋氏が関与したUFO事件の記事をパソコンのフォルダーに保管していました。 何かなければ、赤の他人が関与した事件を調べるはずはありませんよ」    東元がいつになく強い口調で言った。 「病死として処理した事件を蒸し返すなんて、よほどのことが起こらぬ限りないと思います」    今川が言った。 「宇宙平和党の生珠しょうじゅ議員が、石川氏の死因に疑問を抱いて、 警察に再調査を依頼したと聞きました。 彼がなぜ、そこまでするのか真意はわかりませんが、 私も、石川氏の死因には、疑問を抱いていましたし、これで、何かわかると良いのですが‥‥ 」    東元が、政治家の名を口にした。 (なぜ、政治家が、一企業のロボットクリエーターの死に関心を持つんだ? ) 「それで、真鍋さんの様子は? 」    今川が訊ねた。 「それが、弁護士が来るまで何も話さないと、黙秘を続けているそうです。 たしか、弁護士は、大内望月という名前です」    東元が答えた。 「大内望月という弁護士であれば、 私も知っています。すぐに連絡を取って、それとなく、真鍋さんの様子を聞き出しますよ」    今川は、迷わず協力を申し出た。 「ありがとうございます。よろしくお願いします」    東元が言った。 今川は電話を切るとすぐに、大内に電話をした。 「もしもし、今川です」 「どうやら、無事に、出られたようだな」 「通報したのは、あなたですよね? 」 「前に、忠告しておいただろう? 」    大内が言った。 「真鍋さんの弁護を 引き受けたというのは本当ですか? 」    今川が訊ねた。 「もう、あんたの耳に届いたか? 」  大内が言った。 「何か知っていることがあるのであれば教えてください」  今川が低い声で告げた。 「警察は、石川氏が急死した件に 事件性があるとして再捜査をはじめた。 晃子さんは、石川氏を殺害した容疑者として疑われている」    大内が言った。 「たしかに、石川氏は、真鍋氏について調べていたようですが、 2人が知り合いだったことは、テクノロイズムの東元さんも知らなかったようです。 殺人容疑をかけられるというのは、強引過ぎるのではありませんか? 」    今川が押し殺した声で言った。 石川氏のからだには、何者かと争った形跡がなかったと警察は発表した。 争った形跡がないのに、他殺を疑うということは、 石川氏は、無抵抗の状態で、傷もつけられず殺されたということになる。 「宇宙平和党の生珠銀河は、元エリート捜査官だ。 警察トップに圧力をかけて、再捜査をさせたらしい。 捜査官時代は、あまりのしつこさに、スネークというあだ名がつけられたらしい」    大内が言った。 「真鍋さんとは、いつから、知り合いだったのですか? 」    今川が慎重に訊ねた。  石川氏の身辺をかぎまわっている大内のことだから、 真鍋晃子とも、どこかでつながっていてもおかしくはない。 「おたくのことだから、どうせ、僕の方から、彼女に近づいたと思っているのだろうが、 彼女の方から、近づいて来たのだ。 以前、ニュース番組で共演したことがあって、僕のことを覚えていたらしい」    大内が答えた。 「そのニュース番組でしたら、私も拝見しました。 私が、真鍋さんを知ったのは、そのニュース番組がきっかけです。 しかも、あなたと初めて会った日に、彼女から、収録テープが送られて来たんです。 どういうわけなんでしょうか? 」  今川が言った。  あの後、収録テープは、佐目教授宛てに送られたものだとわかった。 佐目教授が、大内望月を真壁晃子に紹介したとも考えられる。 「それは僕にもわからない。とにかく、石川氏は、晃子さんと過去に交際していたらしい。 別れてからも、友人として会っていたと言うから、 晃子さんが、石川氏の自宅近くにいてもおかしくないはずだ」    大内が言った。 「2人は、交際していたんですか? 」    今川が念を押した。 「だから、そうだと言っただろう。若いころの話だがな‥‥ 」    大内が答えた。 「警察が、他殺の線で再捜査しているということは、 何か、他殺の証拠があるということですか? 」    今川が訊ねた。 「UFO騒ぎが影響しているのではないか? もしも、本当に、石川氏が殺されたとしたら、 殺した犯人は、晃子さんじゃない! 地球外生命体の仕業だ! 」    大内が大声で言った。 「石川氏が、地球外生命体に殺されるはずがありません。 おかしなことを言わないでください! 」    今川が言った。  真鍋晃子を弁護していると聞いて、大内望月のもうひとつの顔をすっかり忘れていた。 まともな弁護士が、地球外生命体に殺されたなど口にするはずがない! 「とにかく、晃子さんはまもなく、釈放されるはずだ」    大内が告げた。 「そうですか‥‥ 」    今川が言った。 「今後も、調査は続けるつもりだ。 何か、新しい情報をつかんだら教えてくれ」    大内は一方的にそう言うと電話を切った。 その夜、今川は、東元から、石川氏が行きつけにしていた赤坂にある高級料亭に呼び出された。 「先日は、興奮してしまいすみません。 生珠議員が、警察に再捜査を頼んだと聞いて、我を見失っていました」    東元が平謝りした。 「何も、東元さんが、謝る必要はありませんよ。 ところで、石川氏の死因に疑いを抱いていたのは本当ですか?  何か、不審な点でもあったのですか? 」    今川が矢継ぎ早に訊ねた。 「実は、あなたに、隠していたことがあります」    東元が神妙な面持ちで話を切り出した。 「隠していたこととは何ですか? 」     今川は思わず、つばを飲み込んだ。 「石川氏の本当の死因は、 致死量の宇宙線ウィルスを 1度に浴びたことによる感染症だったんです」    東元が意外な事実を告白した。 「宇宙線とは、あの宇宙に漂っている放射能みたいなものですよね?  被爆ならまだしも、感染するなどありえるのですか? 」    今川は、聞きなれない病名に動揺を隠せなかった。 「私も、初めて聞いた時は、信じられませんでした。 宇宙空間であるまいし、地球上で、宇宙線を浴びるなどということはあり得ません。 それに、感染するってなにと思いました。 ですが、宇宙線ウィルスの存在はすでに、明らかとなっているわけです」    東元が小声で答えた。 「ふつうに生活していて、 地球上にはない宇宙線ウィルスに感染するなんて考えられません。 いったい、いつ、どこで感染したのでしょうか? 」    今川は驚きを隠せなかった。 「さあ、わかりません。まるで、SF映画みたいな話で‥‥ 。 ここへ来るまで、社長に信じて頂けるか不安でいっぱいでした。」    東元がしきりに、ハンカチで額をぬぐうと言った。 「会社としては、本当の死因を公にはしないのですか? 」    今川が訊ねた。 「真相は公表しないつもりです。 石川氏の死因は他殺の可能性ありとした方が、我々にとっては好都合ですから‥‥ 。 なんとしても、現首相の再選だけは避けたい。 そのためには、宇宙平和党に政権を奪還してもらわねばなりません」    東元が低い声で答えた。 「もしかして、例のスキャンダルを利用するおつもりですか? 」    今川が訊ねた。 「気の毒とは思いますけれど、真鍋晃子には、 日本の将来のために犠牲になって頂かなければなりません」    東元が答えた。 「大内弁護士は、真鍋さんはまもなく、釈放されると言っていました。 スキャンダルもすぐに、もみ消されるのではありませんか? 」    今川が言った。  まさか、石川氏の死に、政界の闇が潜んでいるとは夢にも思わなかった。 「真鍋晃子が所属する研究チームは、毎年、政府から多額の資金提供を受けています。 資金提供がはじまったのは、現政権発足以降と言われています。 彼女が、石川氏の死に何だかの関わりがあるとなれば、マスコミがかぎつけるに違いない」    東元が神妙な面持ちで言った。  

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